「蓮・・・・?」

小声で社が蓮の名前を呼んだ。
蓮の落ち着きのない態度が伝わってしまうのか、ピリピリとした空気が会議の場を悪くしている。
普段無表情な蓮がめずらしく苛立ちソワソワしている。誰の目にも報告している部長の失態に頭に来ているのだと思っていた。
だが、実際にはキョーコに電話できないことでどこらともなく苛立ちがこみ上げてくるのを何とかこらえているだけだった。


蓮はゆっくりと社を見つめると、社が酷く渋い顔をして自分を見ていることに気が付いて瞳だけで部屋の中を見回した。
誰もが緊張した面持ちで報告の内容を聞いているが、いつもと違って硬い雰囲気に蓮は驚いていた。
さらに報告の内容もまったく耳に入っていなかったのか、いつの間にか報告者が3人もかわっていたことに心の中で苦笑する。


・・まさか仕事中にこんな感情的になるとは・・


自分の心の変化に蓮自身が驚き、報告している部長に視線を向けると紙のように真っ白な顔で報告と謝罪を繰り返している。
内容に耳を傾けたが、それほど大きな失態ではない。
十分予想できる範囲だった。
ただ、自分のイライラした態度が場を悪くしているということは誰の目にも明らかだった。


「澤田部長・・報告ありがとうございます。・・想定内なので問題ないです。」
短く告げると澤田部長と呼ばれた恰幅の良い男は、大きく息を吸い込み一礼してから席に着いた。
あと10人。
問題なく報告が終了すれば1時間後にはキョーコに連絡することが出来る。


その頃には1時になるだろう・・


彼女は少しくらいい寂しいと思ってくれるだろうか・・
それともあっさりと深い眠りについているのだろうか・・


ほんの少しで良いから俺のことを思ってほしいなど、今まで仕事中に女性のことなど考えたこともなかった蓮にしては珍しくそんなことを考えていた。