バスタオルを頭にのせたまま、キョーコは片手で携帯電話をじっと見つめていた。待つことに疲れて自分から電話をしてみようと思ったものの、なかなかその行動に移せない。
いつもどんな用事があって電話していたのか、何を話せばいいのか、それすらも思い出せずただじっと携帯電話を見つめていた。


「・・いつも何を話していたっけ・・」


毛先からポタポタと滴が落ちる。
その水滴が携帯電話に落ちるとキョーコは、髪の毛が濡れたままになっていることに気が付いて慌てて髪を拭き始めた。


「よし、髪の毛を乾かしてからにしよう・・・・んーでも、その前にかけてしまった方が・・」


携帯電話と時計を交互にながめ、落ち着きなく視線をさまよわせる。
バスタオルを肩にかけながら、再び携帯を強く握りしめ何度も蓮の電話番号を表示させては、ため息をついていた。


「はぁ・・もう!!」
自分に苛立ちながら気合をいれ、最後の発信ボタンを押した。


トゥルルルル・・

呼び出し音が交互に聞こえ、キョーコは緊張で息を止めていた。
後、2コールしても出なかったら切ろうと心の中で騒がしいほどドキドキしている心臓の音を聞きながら、そんなことを思っていた。


はぁー


「やっぱり・・・でないか・・・・」
がっかりした気持ちと同じくらいほっとした自分がいる。
いつの間にか止めていた息を大きく吐き出し、深呼吸すると少しだけ心が落ち着きを取り戻した。


「・・ぅう・・寒い!!」
お風呂上りに乾かしもせず、濡れたままにしていた髪の毛が身体を冷やす。
肩にかけていたタオルも湿気と共にキョーコの体温を奪っていた。


「やだ、なんか体中がぞくぞくしてきた・・・早く寝ないと・・」
キョーコは慌てて髪の毛を乾かして、明日の準備をする。緊張が解けたせいなのか蓮に連絡をしたこともすっかりと忘れベッドに駆け込むように入ると、あっという間に寝息を立て眠りはじめた。