結局昨夜はキョーコと連絡が取れなかった。


それでもキョーコから連絡があったことだけで蓮は嬉しさを隠すこともできないほど浮かれていた。もちろんそれに気が付くのは社くらいで、周りの社員からは普段となんら変わらない無表情に近い氷の美貌に見えていた。


「で、蓮・・・・どうしたんだ?」


会議や外出で慌ただしく生活をしていた蓮がやっと一息ついたのは16時を過ぎたころだった。社はそのタイミングを見計らって社長室に足を踏み入れると、朝とは違い普段の落ち着いた蓮に戻っていて 何かあったな と思った。


「いや・・・・」
短く応えた蓮の態度は、今までと変わらない。
朝の蓮の態度を見ていなかったら社自身も気が付かなかっただろうが、それがかえって不自然に感じた。
社は蓮の近くまで歩いて行くとその周りに置いてある書類などに目を向けると状況を確認するように視線を走らせた。


「・・仕事じゃなさそうだな・・・・キョーコちゃんか?」


社の言葉に蓮はわずかに口元を歪めた。


「・・・・昨夜連絡をもらったんですが・・それ以降会えないし・・電話にも出てもらえないんです・・」


たった数時間だろう?と言い出しそうになった言葉を奥歯に力を入れて社はこらえた。
恋する乙女の様な蓮の行動に嬉しさがこみ上げてくるのは言うまでもない。これほど夢中になれる女性が今まで蓮の周りにいなかったのが不思議なくらいで、いつもなら彼女達が蓮に夢中になり、その強力な愛情に蓮がついて行かれてい状況ばかりだっただけに余計にうれしかった。


だが今は違う。
彼女に連絡が取れないと言って一喜一憂する蓮がいる。


このままキョーコちゃんと上手くいってほしいと思う社の心とは裏腹に、キョーコの仕事がこれからの蓮を苦しめることになることに社は気が付いていなかった。