社から聞いた話が、蓮の集中力を妨げた。
一人で大丈夫だろうか、そんなことが何度となく頭をよぎる。

「別に子供じゃないんだから・・」


誰に言うわけでもなく蓮がポツリとつぶやくが、その表情は言葉とは裏腹に不安の色があらわれていた。


柱にある時計に視線を向け、落ち着く何度も組みなおした足は、しびれを切らしたように無造作に投げ出した。


社の声が耳に残る。


『心配なら直接会いに行けばいいだろう?』
・・・彼氏でもないのに・・か?
ただ、心配だというだけで、一人暮らしの・・彼女の家に?


今まで自分が恋愛だと思って付き合っていた彼女たちへの行動が、最上さんに対して何の役にも立たないことにいら立ちを覚える。
女性にも仕事にも何の苦労もしたことがない自分が今になってひどく不幸に思えた。


「・・・・はぁ~」
何をしているんだろう・・・


テーブルの上にあった車のキーを手にして、すでに15分も時間が過ぎている。
まるで病院の待合室にいるように、うろうろと社長室の中を歩きまわりその行動につかれてソファーにすわる。何度か繰り返し多その行動に蓮はついに一人で笑い出した。


「ハハッ・・まったく・・俺は何をしてるんだか・・」


大きなため息をついた後、意を決したようにソファーから立ち上がった。
社長室の大きなデスクに無造作に置いていたジャケットを手に取ると、柔らかい笑みを浮かべて窓の外に視線を向けた。


・・座っていても彼女のことばかり考えるんだったら、いい加減直接会って話をしたほうがよさそうだ・・・


ダメならその時に考えよう・・・・


心の枷が外れたかのように、蓮は嬉しそうに社長室を後にした。