自分の頭がついにおかしくなったのかと思った。


ショータローの優しい声がまだ耳に残る・・・・

あんなにやさしい声を今まで聞いたこはなかった


聞きなれていた声とは少し違い、熱を帯びたような優しい声が頭の奥にいつまでも残り、キョーコの頭を支配していた。

その声は、キョーコの考えを鈍らせる。


さっきまで、蓮から連絡がないことにがっかりしていた心も、ショータローのお蔭というべきか、いつの間にか頭の片隅から追いやられ、落ち着きなくベッドの中で電話のやり取りを思いかえしていた。




『・・・・キョーコ、俺と付き合ってくれ』

何の冗談かと思った。

また、からかわれたのだと思い、すぐに返事をしてしまったことを後悔したのは、電話を切った後だった。


『・・1週間・・いや、10日間・・・・その間だけで良いから、ほんとの恋人らしく接してくれないか?』

ショータローに頼みごとをされることは何度もあった。だが、私の心を確認するように頼まれたのはこれが初めてだった。

あまりにも真剣な声と優しい言葉遣いに、愛を忘れて凍り付いていた心が溶けそうになったのは、自分でも驚いた。


かすかに心の奥で何か心の動きを変えるようなキシリという音を聞いたような気がした。


「理由は・・・?」

何とか振り絞って出した声はカラカラで、違う自分が無理やり声を出したような感覚だったのをキョーコはベッドの上で寝転がりながら思い返す。

瞳を閉じれば、まるで耳元で囁やかれていたような錯覚さえ感じた。


『それを・・それを言いたくないからお前に頼んでいる・・・・頼む・・キョーコ』

擦れた声が切なく聞こえ、ドキッとした。

心臓がわしづかみされたようにキリキリと痛み出し、キョーコはあわてて頭を振って心を現実に戻し、瞳を開いた。


はぁ~

「・・私何やってるんだろう・・・・」


ただでさえだるい体が一段と熱を帯びて動き辛くなってきたのを感じる。

ベッドに横たわる体をまるで客観的にとらえているかのような感覚が襲ってくると、自分がこの世に存在していないような感じだった。


気が付けば、さっきまで痛んでいた節々の痛みも今は熱で感覚すらない。


早く寝なくちゃ・・・

そんなことを考えたのはほんの一瞬であっという間にキョーコは夢の世界へ足を運んだ。