「蓮!わかったぞ!」
事務所の控室に現れた社が、挨拶もせずに蓮に複雑な表情を向けた。


「おはようございます。社さん・・・・わかったって、何がですか?」


「まったく、お前って心配ならもっと心配そうな表情とかできないのか?ま、それはよいとして、昨日キョーコちゃんと一緒にいた男だ・・・」

蓮の視線が少しだけ厳しくなる。


社の声のトーンからして、またからかわれるのかと思うと蓮は少しだけうんざりしていた。しかしそんな余裕も今回ばかりは無いような気がした。


「彼の名前は 貴島拓斗 あの貴島の3つ上の兄貴らしい」


「貴島君の?・・そうなんですか・・」


「おまえさ~、なんか・・もぉ~少し、リアクションとかないのか?」
少し不満そうな社が笑いながらそんなことを言う。
いつもと変わらないように見えるのは外見だけであって、蓮の心中はすでにさざ波が立ち始めていた。


「じゃ、これでどうだ!!」
驚け!と言わんばかりに自慢げに話をすすめた。


「・・・それでな、彼のポジションなんだけど、な、ななんと!!キョーコちゃんのマネージャーをやるんだって!」
どうだ?まいったか・・驚いただろう? と顔を蓮のほうへ向けた瞬間
社は気温が20度くらい下がったような気がした。


(いやぁあ!!!闇の国の蓮さんが出てますよ!!!っていうか蓮・・おまえ俳優のくせに私生活のリアクションが極端すぎるんだよ・・・中間はないのかぁああ!!)
そんなことを心で叫びながら、蓮の様子をこっそり伺う。
しばらく無言だった蓮がやっと言葉にしたのだがその声は低く、さらに社は落ち着かない気分になった。


「・・・・そうですか・・・・それにしてもずいぶん・・・・」

(ずいぶん・・・で、言葉ためるなよ・・なんだよ、蓮・・)


「仲がよさそうでしたね・・」


(目がぁああああ!!笑ってない・・俺、この話題もうやだ・・これからどうなるんだよ・・ずっとこんな調子だったらああああああ・・しかもこのタイミングでキョーコちゃんとか現れないでほしいぃ~~)



そんな心の叫びもむなしく、控室に扉をたたく音が聞こえる。

反射的に扉のほうへ体を向けると同時に聞こえてきた、かわいらしいよく通る声に社の背筋は震えた。




『敦賀さん、社さん・・あの、ご紹介したい人がいますので、入ってもよいでしょうか?』





まるで、自分の娘が初めて家に彼氏を連れてきたようなそんな心境に社は大きなため息をついた。




後ろにいる蓮がどんな表情なのか、社は考えたくなかった。




つづく