学生時代に校長室に呼ばれた時より緊張しているんじゃないだろうか・・。
背後に控えている闇の国の蓮さんの気配が、早く開けろと言っているような、いないような・・・
ただ、扉を開けるだけなのにこんなに緊張して、心なしか手が震えている気がしたが、意を決して扉を開くことにした。
ガチャ
「お疲れ様です。こんにちは、社さん、つる、・・・・」
いつものように礼儀正しくお辞儀をして、顔を上げたキョーコの瞳に映った蓮の表情にキョーコは顔をひきつらせて固まった。
「やぁ、最上さん・・・・久しぶりだね」(キュラリ)
(ひぃいいいいい、なんで闇の国の帝王が・・・。)
そんなキョーコの思いなど気が付かず、拓斗はキョーコの後ろから顔を覗かせ挨拶をした。
「はじめまして、社さん・・・それと、LMEの稼ぎ頭、敦賀蓮さん・・ですね?」
さわやかな笑顔はやはり貴島に似ていた。
「貴島拓斗と申します。2週間前から京子のマネージャーを担当させていただくことになりました。」
「はじめまして、敦賀蓮です。・・最上さんにマネージャーがついたのは知りませんでした。よろしくお願いします。」
あっという間に闇の国の蓮さんが消え、営業スマイルを張り付けて蓮は愛そうよく答えた。
「敦賀さんには弟がお世話になっているみたいで、兄としても一度挨拶しておかなければって思っていたんですよ・・」
仕事には厳しそうだが、ラフな話し方に社は好感を持った。
「敦賀蓮のマネージャーの社倖一です。」
「LME一、忙しいマネージャーさんですね?」
ニコニコと笑いながら視線を社に向けた。
社はこの機を逃すまいとキョーコと拓斗を部屋の中に招き入れることを考えた。
「・・よかったらお茶でもどうですか?今日はまだ時間があるので、控室で申し訳ないのですが?」
様子を窺うように拓斗とキョーコに視線を向けるとキョーコが嬉しそうに微笑んだ。
「あ、社さん私が淹れますよ?・・えぇ~と、みなさんコーヒーで大丈夫ですか?」
慣れた仕草で、キョーコは準備を始めた。
「京子はよく、ここへ来るようだね?」
手際よくコーヒーカップや豆を用意する姿を見て、拓斗は笑いながら確認した。
「はい、いつも大変お世話になっているんです。・・・・敦賀さんは放っておくと、ご飯を食べない常習犯なので良くお弁当を持ってこの部屋で一緒に食べさせていただいています。」
バツが悪い顔をして、蓮はキョーコを見た。
キョーコはその様子がおかしくてクスリと笑う。そのやり取りを見て拓斗は社に視線を向けると、温かく見守るような柔らかい視線に驚いた後、ニヤリと笑った。
拓斗は席を立ちあがると、京子の手伝いをするために横に並んだ。
「京子はタレントとしての自覚が足りないな・・、コーヒーだって俺が淹れてやるって言ったのに・・・・」
「拓斗さん!絶対にやめてください。あんなガムシロップみたいなコーヒーは今まで飲んだことがありません!!!絶対に私が淹れますのでお気になさらないでください」
「はいはい・・コーヒーとお茶だけはお願いします」
2人の仲の良い雰囲気に蓮の眉間に皺が寄る。鋭い眼光を二人に向ける蓮を横に社は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
「敦賀さんはブラックで良いですよね?社さんは、今日はどうされますか?ミルクだけにしますか?それともブラックに?」
2人が返事をする前に、拓斗が小声でキョーコに囁いた。
「俺には砂糖4杯とミルクね・・・」
「だめです!!そんなに砂糖をいれたら体に悪いですよ?せめて2杯にしてください」
しぶしぶ拓斗が頷くのを見て、社はひやひやしながら視線を蓮に向ける。
さっきより深い皺を刻んだ蓮の表情に心の中で大きなため息をついた。
・・・・はぁ~こんなことなら部屋に入れなければよかった。
社は仲良くじゃれ合っているような2人と、同じ空間にいるとは思えないほど冷ややかな表情を浮かべている蓮を見て大きなため息をついた。
つづく
いつまで続くんだろう・・