トントン


軽いノック音を響かせると、驚くほどの速さで扉が開いた。


「・・忘れもの?」
可愛らしい声にほころぶ口元も、自分に言われた言葉ではないことに気が付いて眉間に皺を寄せる。


「・・やぁ、突然訪問してごめんね・・・」


大きな瞳を一段と大きく見開きキョーコは幽霊でも見たような驚いた表情を見せた。


「つ、敦賀・・さん?・・・・あ、あの・・えっと・・・・」


「ごめん、連絡が取れなくて心配になったんだ・・あの、これ・・それから調子はどう?」
蓮は手に持っていた可愛らしいブーケのような花束をそっとキョーコに手渡す。まだ少し顔色の悪いキョーコを心配して、すぐにでも立ち去って休ませてあげたいのに、そうできない自分にイライラしていた。


「あの・・敦賀さん・・お忙しいのにわざわざすみません。・・あ、あの・・一応先週いっぱいで会社のほうは退職させていただいたんです・・・・なので・・その・・・わざわざお見舞いに来ていただきましたが・・・・その・・」
言葉に詰まりながら、寂しそうに微笑んでいるキョーコを力強く抱きしめたいとおもった。言われた内容よりも、不安そうに揺れる瞳が気になってじっと見つめ返すのがやっとだった。


キョーコが壁に手をつきフラフラとした体を休ませるのをみて、蓮は慌ててキョーコを支えると、キョーコに触れた瞬間恐ろしいほどの欲望が体中をめぐった。


「・・・・つ、敦賀さん?」
気が付けば体が宙に浮かび、蓮に抱き上げられていた。


「フラフラだね?部屋に運んであげるよ・・」
氷の美貌と称された蓮の表情もキョーコのまでは艶やかな笑みとなっていた。


「お、おろして・・おろしてください。あぁああの一人で歩けますから」
キョーコが拒否するように蓮の胸を両手で強く押し返す。そんな彼女の行動がズキズキと心に刃物が突き刺さるようだった。


「・・・それは、さっき来ていた彼氏に・・悪いから?」


「なっ、何・・ち、違いますよ・・」
キョーコはびっくりして顔を上げると、蓮の寂しそうな瞳にぶつかって驚いて見つめ返した。


「つ、敦賀さん・・・?」
じっと見つめていた瞳がゆっくりと近づいてくる、キョーコは不安になりながら蓮の名前を呼んだ。


「・・・・さっきのは誰?彼氏じゃないよね?」


蓮は、切ない声でキョーコに問いただす。
キョーコの返事に蓮の心の中で何かが壊れるような音を聞いた。