蓮に2度連絡をしたが、むなしく機械音が応答するだけだった。
社に頼まれたから連絡をしているのだと自分に言い訳をし、早く電話に出てほしいと願い
ながら、今日も大きくため息をついた後、受話器を手に取ってすっかり覚えてしまった番号に連絡を始めた


「どうせ、でないんだろうけど・・社さんに頼まれたし・・・・」
いつもの通り数回のコールが聞えた後、機械音が応答する。
残念な気持ちとどこか安心したような気持ちが胸に広がると、心の中でため息をつき何度も心の中で復唱した言葉が口からスラスラとこぼれだす。



「最上です・・何度もすみません。・・・・もし・・」



ガチャ


『・・・・最上さん?』
体中にしびれが走り、さっきまで考える必要もないくらいスラスラ出ていた言葉が、何一つ出てこなかった。
頭がパニックを起こしたようで、言われた言葉が理解できない。何か答えなくてはと思えば思うほど頭が真っ白になっていった


『・・最上さん?・・何度か連絡もらったみたいだけど・・携帯に連絡をくれればよかったのに・・』
やさしい声に、聴きたかったその声に体中の血液がドクドクと音を立てて流れ始めて、急に周りの音が何も聞こえなくなったようだった。


「あ、あ、あの・・・・その・・や、社さんが・・」


『クス、社さんは心配しすぎなんだよ・・・大丈夫だよ・・それより君は大丈夫?』
これ以上話しかけられるのが辛かった。
この優しさが、この電話で最後だと思うと涙がこぼれそうで胸が痛んだ。


『・・最上さん?・・大丈夫?』


ちっとも大丈夫ではなかった・・
今にも 会いたくて仕方がないです と叫びだしてしまいそうだった
何か一言でも話してしまえば、涙が零れ落ちそうで、これ以上優しくしないでくださいと言いたいのにその一言さえ言えない。


キョーコは受話器に小さく はい と答え天井を見上げる。さっきまでくっきりと見えていた視界がかすかに歪み始めた。


零れ落ちそうな涙を寸前でおさえ、瞬きをしないようにするのが今自分にできる精一杯の事だった。