一件目の留守番電話を無理矢理終了させると、まだ留守番電話が登録されていることに気が付いて、蓮は恐る恐るボタンを押した。


『最上です・・何度もすみません。・・・・』
心地よい鈴の音のような声が、心の奥に響いた。
音声を止めようと思って伸ばした指がそれ以上動かせず、会いたいと思う気持ちが急速に膨らみ、声が聴きたくて仕方がなかったんだと改めて思わずにはいられなかった。


音声がとまる寸前に、留守番電話の点滅が始まる。再生されたように音声が聞こえてきて蓮は首をかしげた。


『最上です・・何度もすみません。・・・・もし・・・』


留守番電話ではないと頭で考えるよりも先に、素早い動きで受話器を取り上げた。反射的に持ち上げた受話器にキョーコの声が聞こえてくると心臓をわしづかみされたような痛みが走った。


「・・・・最上さん?・・・・最上さん?・・何度か連絡もらったみたいだけど・・携帯に連絡をくれればよかったのに・・」
思うように声が出なかった。
のどを締め付けられているようなかすれた声に、軽く咳払いをしてキョーコの返事を待った。
社に頼まれて電話したという彼女の姿を思い浮かべると、今すぐに会いたいと言い出しそうな自分に驚きつつ、いまさら隠し通せそうにないと諦めて大きくため息をついた。


『・・・あの 、ご、ご迷惑でしたか?』
キョーコに言われた意味が分からず、蓮は焦って返事をする。


「あ、いや違うんだ・・」
自分でも何を答えたらよいのかわからず、蓮はあいまいな返事をする。
蓮がついたため息を迷惑だと受け取ったキョーコに誤解だと言いたいのに、自分をフォローすることもできず、さらに自分の首を絞めたような気がした。


キョーコを相手にすると、まるで自分が小学生にでもなったように気持ちがコントロールできない。何をしてもどれ一つ彼女に良いところが見せられないでいた。


「いや、違うんだ・・・・、その・・・・その君の声を聴いていたら・・会いたくなって」
彼女の迷惑にならないように、そっと想いを伝える。


『あ、え・・とあの・・・・』
彼女の戸惑った声を聴いて蓮は胸に痛みが走った。
いまさら自分の想いを隠しても仕方がないと開き直り、思いのすべてを伝えるか、それとも彼女を思って冗談だよと笑いにかえるか、そんなことを考えながら自分自身を冷静に分析する。


そんなことをしていないと彼女の元へ今にも走り出してしまいそうだった。



・・・・失ってから気が付いた大切な人・・・・
もう、これ以上好きになれる人はいないだろうか・・


「最上さん・・・今時間あるかな?・・やっぱり、直接声がききたいんだ・・」


息をのむ音が聞えた

彼女が驚いた顔をしているのが想像できた。もう、自分の想いをこれ以上抑えることができず、蓮は彼女の返事を待たずに伝えた。


「最上さん・・君に会いたい。会って伝えたいことがあるんだ。今から君の部屋に行かせてもらうね・・・・じゃ」


『え、・・あ・・・・』


何か言いかけた彼女の言葉を聞く勇気もなく、気が付かなかったふりをして蓮は受話器を置くと急いで車のキーを手に取り駐車場へと足を向けた。