☆Q&A1533 低置胎盤・前置胎盤のリスク因子は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2016.8.11「Q&A1179 36歳、胚移植5回、結果が出ません」にてご回答いただきました。その節はありがとうございました。ご回答いただいた直後の移植で妊娠することができ、現在37週になりました。再度質問させていただきたく、メールをさせていただきました。これまでの経過は以下のとおりです。現在37歳です。

採卵1回目 35歳 Aクリニック16個採卵⇒4個胚盤胞(うちレスキューICSI2個)の移植⇒すべて陰性、
採卵2回目 36歳 Bクリニック(クロミッドのみ)5個採卵⇒4個IVF受精せず、1個(未成熟卵)のみICSI⇒初期杯移植⇒陰性
採卵3回目 36歳 Bクリニック(クロミッドのみ)7個採卵⇒7個ICSI⇒4個胚盤胞(3個グレードA、1個グレードC)グレードAを翌月移植し、妊娠、現在37週です。

低置胎盤・前置胎盤の原因について
20週から低置胎盤で、37週でも子宮口から1.5センチしか離れておらず、38週に入ってすぐに帝王切開にて出産の予定です。これまで出血はありませんが、辺縁前置胎盤の疑いもあり、MRIを撮りましたが診断しづらいようです。大学病院のハイリスク外来に通い、37週から管理入院となりましたが、医師からは「移植した人は胎盤が低くなることも多い」と伺いました。受精卵は本来卵管から下りてくるものだが、経腟移植の場合は下から入れるので、確率は高くなるとのことでしたが、いかがなのでしょうか。また私は子宮鏡検査を3年で5回しています。内膜が荒れているような所見があったこと(ウレアプラズマ陽性でした)、移植前のスクラッチ目的で、いずれもA病院で行いました。このことも関係があるでしょうか。それから産科で初めて言われたのですが、子宮後屈とのことでした。こちらも関係あるでしょうか。


②第二子について
凍結胚が3つあるので、採卵せず第二子を授かりたいと思っています。帝王切開なので1年開けるよう言われていますが、移植前にしたほうが良いことはありますでしょうか。不育症検査は不育症専門クリニックで何も該当しませんでした。子宮鏡検査も最後の検査では荒れもなく、問題ありませんでした。また
低置胎盤・前置胎盤になる可能性は高いのでしょうか。


A 正確な情報は、思いつきや推測ではなく、論文を根拠にしたいものです。

低置胎盤(low lying placenta)と前置胎盤(placenta previa)は、胎盤の位置が低いあるいは子宮口を覆っている状態です。この原因は明らかではありませんが、リスク因子として、帝王切開の既往、中絶の既往、子宮内手術の既往、喫煙、多胎妊娠、多産、女性の加齢が報告されています(Obstet Gynecol 2006; 107: 927)。従って、胚移植、子宮鏡検査、内膜が荒れているような所見、ウレアプラズマ陽性、スクラッチ、子宮後屈はいずれもリスク因子ではありません。

一方、似たような言葉に前置血管があります。前置血管(Vasa previa)は、胎盤や臍帯に支持されない胎児血管が内子宮口上の卵膜を走行する状態です。つまり、むき出しの血管が子宮の入り口にあるわけです。もし血管が破綻すれば、胎児は失血のため胎児死亡率が50%以上になります。前置血管の頻度は6/10000であり、リスク因子として、妊娠中期から見られる前置胎盤、胚移植、副胎盤、妊娠初期から見られる胎盤下部1/3への臍帯の陥入、臍帯の卵膜付着が報告されています(BJOG 2016; 123: 1278)。従って、こちらには移植が含まれます。しかし、上記の記載を見る限り、前置血管ではないと思います。

 

②特に事前にすることはないでしょう。次回の妊娠でも低置胎盤・前置胎盤になる可能性は、今回の出産が帝王切開ですのであり得ます。ただ、それを恐れるあまりに、次回の妊娠をやめることはないと思います。