胚移植反復不成功への対策 その1:全胚凍結 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

米国生殖医学会誌(Fertil Steril)7月号に「胚移植反復不成功への対策」に関する論文が2編発表されましたので、2回に分けてご紹介します。

 

Fertil Steril 2017; 108: 72(エジプト)

Fertil Steril 2017; 108: 44(米国)コメント

要約:2014〜2016年に胚移植反復不成功(38歳未満の女性が4個以上の良好胚移植で臨床妊娠に至っていない場合)の方を対象に、全胚凍結+融解胚移植群(81名)と新鮮胚移植群(90名)の2群にランダムに分け、治療成績を前方視的に検討しました。なお、ここでの良好胚とは、day 3胚では7〜9分割のG1を、胚盤胞ではday 5にG3〜G5でAA、AB、BA胚を指します。凍結融解後の胚生存率は97.3%。2群間の治療成績は下記の通り(有意差ありの場合P値を記載)。

 

      全胚凍結+融解胚移植群   新鮮胚移植群   有意差

年齢       31.47歳        31.18歳     なし

過去の移植    3.89回         3.83回     なし

移植個数     2.14個         2.30個     なし

着床率      40.0%         15.9%    P<0.0001

臨床妊娠率    51.9%         28.9%    P=0.002

多胎妊娠率    23.5%           8.9%    P=0.009

流産率      11.1%           7.8%     なし

 

解説:胚移植反復不成功の最新の定義は、40歳未満の女性が3回以上の胚移植で臨床妊娠に至っていない場合でかつ4個以上の良好胚を含む場合(Reprod Biomed Online 2014; 28: 14)とされています。しかし、その対策について世界的にコンセンサスの得られた方法は確立されておらず、様々な取り組みが行われています。本論文は、胚移植反復不成功の方には「全胚凍結+融解胚移植群」が良いことを示しています。

 

日本人を含め東洋人では「新鮮胚移植群」より「全胚凍結+融解胚移植群」の妊娠率がどの年齢の方でも10%良いことが知られていますので、日本では「全胚凍結+融解胚移植群」が主流です。しかし、白人ではこの傾向が少ないため、欧米では現在も「新鮮胚移植群」が主流です。本論文はエジプトでの調査ですが、エジプトでも現在は「新鮮胚移植群」が主流のようです。本論文は胚移植反復不成功の方において「新鮮胚移植群」より「全胚凍結+融解胚移植群」が圧倒的に良好な成績を示していますが、もしかすると胚移植反復不成功の方でなくとも「全胚凍結+融解胚移植群」が良い可能性は否定できません。エジプトにお住まいの方の多くはアラブ人ですから、人種的背景による再検討が必要と考えます。