Q&A1780 OHVIRA症候群です | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 現在19歳で、17歳の時に別の疾患の治療のために行った全身CTでOHVIRA症候群だとわかりました。重複子宮、重複膣、片側膣閉鎖(小さい穴はあいていた)、右腎欠損です。
小学生の頃から常に20cm程度のナプキンをつけているくらい、おりものが多いのが悩みで、それが少しでも改善されればと思い、腹腔鏡で穴が開いている程度の方の膣口を広げる手術を受け、経血などがくぼみに溜まらないようにしました。しかしながら、自覚症状としてはおりものの状態は変わらず、外科的処置ではこれ以上の改善が見込めないということて、低用量ピルを使っていますが、こちらもほとんど効果はありません。おりものに関しては、とりあえずピルで様子を見てスルーしようと思っています。
ですが、それとは別に気になることがたくさんあります。主治医ということではないのですが、いつも診てくれている先生が、私の病態にとても興味を持っている様子から、自分でもそれまで以上に自分のことについて知りたくなりました。まず、私のようなOHVIRA症候群の人は、日本にどのくらいいるのか知りたいです。学校の健康診断や近くのクリニックで問診票に書いても全く理解されず、自分で説明することになります。どちらも婦人科の医師だったため、その科の専門でも知らないくらいのものなのかなと思ってしまいました。また、この病態は、結局のところ子宮奇形ということだけに過ぎないのでしょうか。性分化疾患(異常)とは別物と考えてよいのでしょうか。フランクに接してくださる先生なので、診察内で聞こうと思えば聞けるのだろう思うのですが、会話の中でどう切り出せばいいのかわからないのと、半分くらいは私の興味本位なところがあり、なかなか聞けずにいました。
先生がご存知のことがありましたら、何かお教えいただきたく、だいぶ前のブログですがコメントさせてただきました。どんなことでも構いません。上記の疑問のみならず、自分の体のことに関してより多くのことを知りたいです。

 

A Obstructed Hemivagina and Ipsilateral Renal Anomaly(OHVIRA)症候群は、子宮奇形に片側腟閉鎖・片側腎形態異常を伴うものを言います。2013.7.8「☆見逃しやすい子宮と膣と腎臓の形」で示した「1〜5」のことで、かつては「Herlyn-Werner-Wunderlich症候群」と呼ばれていましたが、最近OHVIRA症候群と呼ぶようになったようです。最も多いのが「1」ですが、「2〜5」も広義のOHVIRA症候群と考えても良いと思います。また、それ以外にも亜型はあります。

 

子宮形態異常一般女性で4.3%、不妊症で3.4%、不育症で12.6%にみられ、決して稀な疾患ではありません。しかし、左右の子宮は別々に発育するため、片側だけに子宮形態異常がみられることが時にあります。左右どちらかの腎欠損と婦人科臓器の閉鎖した状態を呈する症候群が本症候群です。閉鎖した部分には生理の血液が貯留するため、生理中の激しい腹痛で救急外来を受診したり、持続する膣炎により婦人科外来を訪れます(主に10代の女性)。本疾患は、産婦人科医の中でも遭遇する頻度が低いのではないかと考えられていますが、実際は本疾患の存在を知らない場合に診断することはできません。したがって、多くの場合には見過ごされており、本疾患を知っている産婦人科医のもとをたまたま訪れた際に発見されます(つまり、診断されない方が多数おられるため、本疾患の有病率は不明です)。本疾患は、性分化疾患(異常)ではなく、片側のミュラー管発育停止です。

 

私は、慶應義塾大学の恩師の故田村正蔵先生2013.5.21「ピル(OC)のメリット 」を参照ください)から教えを受け、大学やその関連病院に勤務していた1988~2008年に23名の本疾患の方を診断•治療してきました。これらのほとんどの方から妊娠出産報告を聞いています。私が医師になって3年目には、自ら本疾患の診断・治療を行った症例報告を発表しました(日本産科婦人科学会埼玉地方部会会誌 1992; 22: 248)。質問者さんと同様に「おりものが多い」「膣炎が治らない」13歳の方でした。診断のポイントは「隠れた膣」があるのではないかと疑うことです。治療のポイントは、隠れた膣の壁を大きく開放することです。穴が開いている程度の方の膣口を広げる手術ではダメ(気休め)で、大きく開ければおりものの悩みは解消するでしょう。何の目印もない膣の壁にメスを入れるのは最初は非常に大きな勇気がいります。ぜひ、多くの産婦人科医に本疾患を知って欲しいと思います。

 

なお、このQ&Aは、約4〜5ヶ月前の質問にお答えしております。