Q&A2620 ☆第一子が二分脊椎でした | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2019年に体外受精で第一子を出産しました。同時期に取れた凍結胚を戻す事を希望していますが、第一子は二分脊椎という先天性疾患でした(出産後にわかりました)。

同時期に取れた凍結胚はまた先天性疾患の可能性があるのでしょうか。体外受精は自然妊娠より確率が高いのは知っています。採卵に苦労したのと、第二子を望んでいるので破棄はしたくないのですが、また病気だったらと思うと不安です。

 

A 基本的にそれぞれの妊娠は独立したものですので、同時期に取れた凍結卵で先天性疾患の確率が増加するとは考えられていません。しかし、二分脊椎を繰り返す、あるいはその他の先天性疾患の可能性を少なくするためにできることはやっておきたいと考えます。論文を2つご紹介します。

 

①Pathol Res Pract 2013; 209: 409(ハンガリー)

要約:二分脊椎のため中期中絶を実施した方を対象に、二分脊椎単独の場合(307症例)と二分脊椎に脳室拡大を伴った場合(372症例)に分けて二分脊椎を繰り返す場合の確率を検討したところ、前者で2.1%、後者で8.9%でした。

 

②Birth Defects Res 2017; 109: 68(英国)

要約:マウスでは、イノシトール欠損により胎児の神経系の異常が生じること、イノシトール投与により異常が回避できることが報告されています。イノシトールはビタミンB群の一種であり、妊娠中の女性への安全性が示されています。そこで、イタリアと英国で過去に胎児の神経系の異常を経験した女性を対象に、次回の妊娠で葉酸+イノシトール摂取を行い、胎児の神経系の異常が回避できるか否か検討しました(パイロットスタディ)。現在までのところ、52名全ての妊娠で胎児の神経系の異常を認めていません

 

解説:胎児の神経系の異常には、遺伝的要因と環境因子(母体の栄養状況)が関与します。母体の葉酸摂取により胎児の神経系の異常を防ぐ効果が知られていますが、完全に防げる訳ではありません。

論文①は、二分脊椎以外の奇形(異常)の有無が、二分脊椎を繰り返すかどうかのポイントになることを示しています。現在、胎児診断が進歩していますので、妊娠されましたら胎児診断専門外来で(極めて精度の高い超音波検査など実施)胎児以上の診断をお勧めいたします(妊娠週数毎に様々なチェックポイントがあります)。

論文②は、葉酸単独ではなく、葉酸+イノシトール摂取が胎児の神経系の異常の回避に有用である可能性を示唆しています。本件につては大規模な検討が必要ですが、葉酸のみならず、イノシトールを服用してみる価値は十分あると思います。

 

下記の記事を参照してください。

2018.9.27「Q&A1964 正常胚で脊髄髄膜瘤、第二子胚移植では?

2018.9.20「Q&A1957 ☆葉酸5mg摂取しても二分脊椎でした

2013.2.27「☆葉酸の効能

 

なお、このQ&Aは、約2ヶ月前の質問にお答えしております。