社会的卵子凍結の背景にあるもの | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、社会的卵子凍結の背景にあるものを横断調査により示したものです。

 

Hum Reprod 2017; 32: 575(オーストラリア)

要約:1994〜2014年社会的卵子凍結を実施した183名を対象に横断調査を行いました。96名(53%)で回答が得られ、卵子凍結の年齢は平均37.1歳、卵子凍結個数は平均14.2個でした。2%の方は卵子凍結できず、卵子凍結7個以下が24%、8〜15個が35%、16〜23個が25%、24個以上が14%でした。約1/3(34%)の方は、過去に妊娠歴がありました。6名(6%)が凍結卵子を用いた顕微授精を行い、3名(3%)が出産に至りました。凍結卵子を用いない主な理由は「シングルマザーになりたくないから」というものでした。87名(91%)が卵子凍結を継続しており、21%の方は凍結卵子を使う予定があり、69%の方は状況次第と回答しました。理想のお子さんの人数は平均2.11人と回答しましたが、実際の希望は平均1.38人でした。

 

解説:社会的卵子凍結は、来るべき将来に備えて若い時の卵子を保存しておこうという考え方であり、いわば「保険」のようなものです。株式会社アップルやフェイスブックでは従業員の卵子凍結の費用を補填する制度を発表しました。また、日本でも浦安市は卵子凍結の補助を設けています。このような制度の是非はともかくとして、卵子凍結は現実的に可能な一つの選択肢になっています。しかし、凍結卵子を用いた顕微授精による出産率は、卵子1個あたり、30〜34歳で8.7%、38〜40歳で4.5%、41〜42歳で2.5%と決して高くはありません。米国では卵子凍結の費用は、1回の採卵で100〜150万円かかりますので、決して安いものではありません。本論文は、社会的卵子凍結の背景にあるものを横断調査により示したものであり、実際に凍結卵子を用いた方はわずか6%であることを示しています。本当に保険のようなものなのです。