プロテインS活性低下 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

プロテインS活性低下に関する論文を2編ご紹介いたします。

 

①Br J Haematol 2007; 136: 656(オランダ)

要約:家族性血栓性素因を持つ女性(プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、AT3欠乏症376名を対象に、抗凝固療法の有用性につき完全な初回妊娠について前方視的に検討しました。内訳は、静脈血栓症で発見された血栓性素因を有する50名とその親族326名(欠乏症の方とそうでない方を含む)です。55名の初回妊娠における妊娠転機は下記です。

 

         血栓性素因有(37名)      血栓性素因無(18名)

抗凝固療法  実施(26名) 未実施(11名)  実施(3名) 未実施(15名)

流死産率   0%(0/26)* 45%(5/11)*   0%(0/3) 7%(1/15)

*有意差あり

 

抗凝固療法を実施しなかった場合と比べ、抗凝固療法を実施した場合、流死産のリスクは0.07倍に有意に低下しました。

 

②J Thromb Haemostat 2004; 2: 592(欧州8カ国)

要約:1994〜1997年に欧州8カ国9施設の遺伝性の血栓性素因を有する女性(プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、AT3欠乏症、factor V leiden遺伝子変異131名を対象に、抗凝固療法の有用性につき登録後の初回妊娠について前方視的に検討しました。なお、抗凝固療法実施83名(このうち77名はヘパリン使用)、未実施48名です。流死産率は、血栓性素因があり、過去の流死産歴がなく、抗凝固療法を実施しなかった方で高い傾向がありました(有意差無し)。なお、血栓性素因の内容による相違はありませんでした。抗凝固療法実施した83名における方法、用量、期間が異なるため、抗凝固療法の効果についての結論は得られませんでした。なお、抗凝固療法を実施しなかった方での流死産率は、プロテインS欠乏症(2/7)、プロテインC欠乏症(4/13)、AT3欠乏症(1/5)、factor V leiden遺伝子変異(3/21)でした。なお、過去に流死産歴がある方に限定すると、プロテインS欠乏症(1/1)、プロテインC欠乏症(2/2)、AT3欠乏症(0/0)、factor V leiden遺伝子変異(0/5)でした。

 

解説:遺伝性の血栓性素因は不育症(流死産)のリスク因子であり、抗凝固療法が有効と考えられていますが、データとしては不十分です。①②ともに欧州からの報告ですので、主に白人での検討になります。血栓性素因は、人種間の違いが大きくありますので、本来は人種毎の検討が必要です。例えば、プロテインS欠乏症は東洋人に見られ、factor V leiden遺伝子変異は白人に見られる疾患です。本論文の症例数では、結論を導くことはできませんが、プロテインS欠乏症もプロテインC欠乏症も不育症(流死産)のリスク因子であり、抗凝固療法が有効である可能性が示唆されます。