精子調整から人工授精までの時間は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、精子調整から人工授精までの時間について検討したものです。

 

Fertil Steril 2017; 108: 764(オランダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.08.003

要約:2005〜2015年に人工授精を実施した1136周期を対象に、精子調整後1時間以内に人工授精を行なった589周期、精子調整の翌日(室温保存で24時間以内)に人工授精を行なった547周期の妊娠成績を後方視的に比較検討しました。各群の妊娠率はそれぞれ、13.1%(77/589)と14.1%(77/547)であり有意差を認めませんでした。

 

解説:WHOの人工授精マニュアルによると、射精から精子調整までの時間は1時間以内を推奨するとの記載がありますが、精子調整から人工授精までの時間についての記述はありません。精子調整後の時間が短いと、染色体凝集が解除されるための時間が不十分で、この準備ができていない状態で精子が注入されることになるのは妊娠には不利になります。一方、精子調整後の時間が長くなると、精子を長時間培養することによるマイナス作用、たとえばDNAのフラグメントが生じるため、あるいは先体反応が起こるために、妊娠には不利になると考えられていました。そのため、下記の記事でご紹介した論文では、精子調整後40~80分で子宮に注入した場合に最も妊娠率が高くなることを示しています。本論文の研究は、土曜日に勤務する職員の人数が少ないため、金曜日に精子を提出してもらい調整後一晩たった精子を土曜日の人工授精に用いざるを得なかったために、仕方なく調整後1日経過してしまったことを利用したものです。その結果、調整後24時間以内であれば、人工授精の妊娠率にマイナスにはならないことを示しています。しかし、たった一つの施設でのデータですので、もう少し追加の検討が必要です。

 

下記の記事を参照してください。

2014.9.10「☆人工授精の精子調整時間と妊娠率の関係