☆オメガ3脂肪酸摂取で妊娠成績向上 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、妊娠を目指している方のオメガ3脂肪酸摂取についてのEARTHスタディーからの報告です。


 


Hum Reprod 2018; 33: 156(米国)doi: 10.1093/humrep/dex335


要約:2006~2016年100名の女性で136周期の体外受精を行い、オメガ3脂肪酸摂取と妊娠成績の関係を前方視的に検討しました(EARTHスタディー)。オメガ3脂肪酸の測定はCD3とCD9でガスクロマトグラフィー法で行いました。全脂肪酸におけるオメガ3脂肪酸の割合の中央値は4.7%でした。長鎖オメガ3脂肪酸摂取量増加に伴い、臨床妊娠率と出産率は有意に増加しました。例えば、長鎖オメガ3脂肪酸摂取量が1%増加すると、臨床妊娠率と出産率は8%増加し、飽和脂肪酸の代わりに長鎖オメガ3脂肪酸摂取量が1%増加すると、出産率は2.37倍に増加しました。なお、オメガ6脂肪酸、オメガ6脂肪酸/オメガ3脂肪酸の比率、不飽和脂肪酸摂取と妊娠成績の関連はありませんでした。


 


解説:脂肪は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類され、飽和脂肪酸はラードのように固形のものであり、不飽和脂肪酸は固まらずに液体になっているものです。不飽和脂肪酸にはオメガ3、6、9がありますが、オメガ3、6が必須脂肪酸で多価不飽和脂肪酸と呼ばれます。オメガ3脂肪酸には、アルファリノレン酸 (ALA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)があり、冷たい海で取れる脂身の多い魚、イワシ、ニシン、サバ、サケなどに多く含まれています。DHAは脳の発達や記憶に重要で、EPAは動脈硬化や高脂血症(コレステロール)やアレルギーに効果があることがよく知られています。一方、オメガ6脂肪酸はリノール酸、γ-リノレイン酸、アラキドン酸であり、紅花油、ゴマ油、ヒマワリ油、大豆油、カノーラ油、コーン油などから摂取できるため、日常の食生活で十分に摂られています。オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は正反対の作用があり、オメガ3脂肪酸には抗炎症作用オメガ6脂肪酸には炎症促進作用があることが報告されています。オメガ6脂肪酸/オメガ3脂肪酸の比率が増加すると、心臓の冠動脈疾患や炎症性疾患や鬱病の罹患率が増加します。慢性関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、SLE、乾癬(かんせん)、多発性硬化症、偏頭痛、喘息では、オメガ3脂肪酸(EPA, DHA)による治療の有効性が示されています。


 


本論文は、妊娠を目指している方のオメガ3脂肪酸摂取は妊娠成績向上に有効であることを示しています。オメガ3脂肪酸は男女ともに妊娠を目指す方にお勧めの栄養素です。なお、オメガ3脂肪酸摂取により、卵の質、着床、ホルモン、月経周期の改善が生じるのではないかと考えられています。


 


オメガ3脂肪酸に関しては、下記の記事を参照してください。


2015.2.19「脂肪酸の採り方で精子の運動率が変化する


2013.3.19「お魚は内膜症の方にもお勧め


2012.11.11「オメガ3脂肪酸は男性にもお勧め


2012.11.10「オメガ3脂肪酸の抗炎症作用


2012.10.8「妊娠を目指す女性はお魚を食べましょう


 


また、EARTH(Environment and Reproductive Health)スタディーは、生活環境と生殖を前方視的に検討するスタディーです。これまでに下記の論文を紹介してきました。


2017.9.5「アルコールとカフェイン摂取について


2016.12.29「フタル酸が胚発生に与える影響


2016.6.26「全粒粉摂取と子宮内膜厚、妊娠率の関係

2016.3.27「食生活は体外受精の成績に影響を及ぼすか?」

2016.1.19「フタル酸による卵巣予備能低下」

2015.6.11「☆野菜や果物の農薬量と男性不妊の関係」