非侵襲的NCS検出法 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、非侵襲的NCS(nucleolar channel system、核小体チャンネルシステム検出法について検討したものです。


 


Fertil Steril 2018; 109: 165(米国)


Fertil Steril 2018; 109: 165(米国)コメント


要約:2015〜2017年22名のボランティアの方から得られた子宮内吸引サンプルと子宮内膜組織採取によるNCS検出率を前方視的に検討しました。NCSの有無の判断は、1名の評価者がNCS陽性細胞を3個以上確認した場合あるいは2名の評価者が2個以上確認した場合に「NCSあり」とし、30個以上の子宮内膜上皮細胞を観察しNCS陽性細胞が1つも確認できなかった場合に「NCSなし」としました。また、30個未満の子宮内膜上皮細胞でNCS陽性細胞が1つも確認できなかった場合には「NCS評価不能」としました。子宮内吸引サンプルで「NCSあり」と判断された方の41.9%で子宮内膜組織内のNCSが認められ、子宮内吸引サンプルで「NCSなし」と判断された方の2.0%に子宮内膜組織内のNCSが認められました。


 


解説:子宮内膜の受容能(いわゆる着床の窓)については、今は試行錯誤の段階にあります。ドナー卵子を用いた検討から、ヒトの着床の窓は、24〜48時間程度開いているのではないかとされています。また、着床の窓がズレていると、着床しないか、着床しても流産や化学流産になると考えられています。1960年に発見されたNCSは、着床の時期に一致して出現することが最近報告され、着床の窓のマーカーとしての有用性が示唆されています。また、NCSは黄体ホルモン依存性であり、主に子宮上部に存在し、子宮下部にはあまり認められません。NCSは通常子宮内膜組織の免疫染色で検出しますが、内膜採取による子宮内膜損傷と、組織の固定に時間を要することから、移植当日に評価することができませんでした。本論文は、子宮内膜の損傷がない(非侵襲的)NCS検出法として、子宮内吸引サンプルを用い、リアルタイムにNCSの有無を判別する方法を開発した初めての報告です。本法を用いれば(もちろん改良が必須)、移植当日に着床の窓が開いているかどうかを確認して移植ができる夢のような方法です。もっとも、NCSだけでは着床の窓を判断することはできないでしょうから、実際はそう簡単ではないかと思います。何れにしても今後の研究に大きな期待が持てる分野です。


 


下記の記事を参照してください。


2015.9.4「☆黄体ホルモン濃度はいくつあれば良い?


2014.12.19「子宮内膜の着床能の研究 続報