☆卵巣から卵原幹細胞を分離し卵子を作る技術 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、卵巣から卵原幹細胞を分離し卵子を作る新しい技術を紹介したものです。

 

Hum Reprod 2018; 33: 464(イタリア)

要約:良性婦人科疾患の適応で摘出した閉経後の女性19名(41〜73歳)と閉経前の女性13名(36〜48歳)の卵巣皮質から得られたDDX4陽性卵原幹細胞3週間培養し、各種分化マーカーを用いて評価しました。DDX4陽性細胞はバラバラにした卵巣皮質細胞をマグネットセパレーターを用いて分離し、始原生殖細胞マーカーであるFRAGILISとSSEA4の発現を確認しました。3週間培養後、DEPArray法によりPKH26陽性大小2種類の卵子様細胞が個別に分離できました。卵子マーカーであるGDF9とSYCP3と始原生殖細胞マーカーであるDPPA3により卵子の分化ステージを判断しました。DDX4陽性細胞の中で、FRAGILIS陽性細胞(47.5% vs. 64.8%)とSSEA4陽性細胞(46.7% vs. 64.9%)は、どちらも閉経後の女性より閉経前の女性で有意に高率に認められました。しかし、一度培養してしまえば、どちら由来の細胞も卵子様細胞に分化し(見た目は卵子と同じで大きさは80μm程度まで)、GDF9とSYCP3のmRNA発現に有意差はありませんでした。閉経後の女性より閉経前の女性でより多くの卵子様細胞が認められましたが、統計的な有意差は認めませんでした。また、卵子様細胞周囲の小さな細胞はDPPA3を発現していましたが、卵子様細胞にDPPA3発現はありませんでした。X染色体と5番染色体のプローベを用いてFISH法を実施したところ、大きな卵子様細胞はハプロイド、小さな細胞はディプロイドと確認されました。

 

解説:これまで卵子は生涯一度しか作らないと考えられており、出生後の女性は新しい卵子を作ることはできないとされてきました。しかし、最近の研究ではマウスやヒトの卵巣から卵原幹細胞(卵子を作る細胞)が確認され、新しい卵子が作れるのではないかと考えられるようになりました。閉経後の女性あるいは早発卵巣不全の女性の卵巣皮質にも卵原幹細胞が存在するとの報告もあります。本論文はこのような背景の元に行われ、閉経後の女性からも閉経前の女性からも、適切な培養環境があれば卵子様細胞が分離でき、卵子マーカーであるGDF9とSYCP3発現の確認と減数分裂が確認されたことを示しています。非常に興味深く、発展性が期待できる研究です。

 

この技術が実用化されれば、閉経後の女性も早発卵巣不全(POF、POI)の女性もお子さんを授かる可能性が高くなることは想像に難くありません。もちろん、実用化に向けて超えなければならないハードルは極めて高いものと考えますが、自分の卵巣から卵子を作る本法は、iPS細胞から卵子を作るよりはるかに実用化の可能性が高い方法だと思います。今後の研究に期待したいと思います。