本論文は「地中海型食生活」で妊娠成績が良好になることを示しています。
Hum Reprod 2018; 33: 494(ギリシャ)
要約:2013〜2016年に初回の体外受精を実施した244名(22〜41歳、BMI<30、35歳未満)を対象に、地中海型食事調査スコアを調査し、妊娠成績を前方視的に検討しました。地中海型食事調査スコアを上中下の3群に分けたところ、下位1/3(30点以下)と比べ上位1/3(36点以上)の臨床妊娠率(29.1% vs. 50.0%)と出産率(26.6% vs. 48.8%)は有意に高くなっていました。交絡因子を除外すると、地中海型食事調査スコア上位1/3と比べ下位1/3の臨床妊娠率は0.35倍、出産率は0.32倍となります。
解説:欧米では、遺伝や内分泌などの古典的なリスク因子とは別にライフスタイル(特に食生活)が妊娠を目指す男女に重要であると考えられています。他の原因と異なり食生活は直すことができるからです。まず、男性(精子)には「西洋タイプ」(肉、パン、ピザ、スナック菓子、高カロリー飲料、甘味)より「質素倹約タイプ」(魚、鶏肉、果物、野菜、豆、全粒粉のパン、玄米)が良いされています。一方で、女性には「オランダの食生活」(1日4切れ以上の全粒粉パンかシリアル、1日200g以上の野菜、1日2切れ以上のフルーツ、週に3回以上の肉、週に1回以上の魚、油は単飽和脂肪酸か多価不飽和脂肪酸を用いる)が良いというのはよく知られています。質素倹約タイプの食事もオランダの食事も、どちらも味気ないものです。しかし最近、男性には「地中海型食生活」が良いとの報告が相次いでいます。本論文は、2017.1.9「☆「地中海型食生活」で精液所見が改善?」で紹介した同一グループによるもので、女性にも「地中海型食生活」が良い事を示しています。なお、地中海型食生活は、抗炎症作用と抗酸化作用があり、健康の維持に多くのメリットがあると報告されています。地中海型の食事はオランダの食事より食べ応えがありますので、日本人にも実践可能だと思います。
本論文の優れた点は、健康的な食生活であることが明らかにされている地中海型食生活のみにポイントを絞ったところです。通常の食事調査は、食事摂取頻度調査票(FFQ)を用い、食事の成分分析をするわけですが、様々な成分のどれに的を絞って良いかわからなくなり、分析結果がうまく出せないという欠点がありました。調査はしたけれども、何が何だかわからなくなるというわけです。以下に「地中海型食事調査スコア」のつけ方を記しますので、実際にスコアをつけてみてください。36点以上が目標です。
☆地中海型食事調査スコア
スコア 0 1 2 3 4 5
全粒粉(回/週) 0 1〜6 7〜12 13〜18 19〜31 32〜
ポテト(回/週) 0 1〜4 5〜8 9〜12 13〜18 19〜
フルーツ(回/週) 0 1〜4 5〜8 9〜15 16〜21 22〜
野菜(回/週) 0 1〜6 7〜12 13〜20 21〜32 33〜
豆(回/週) 0 <1 1〜2 3〜4 5〜6 7〜
魚(回/週) 0 <1 1〜2 3〜4 5〜6 7〜
オリーブオイル(回/週) 0 稀 〜1 1〜2 3〜5 毎日
赤みの肉(回/週) 11〜 8〜10 6〜7 4〜5 2〜3 〜1
鶏肉(回/週) 11〜 9〜10 7〜8 5〜6 4〜5 〜3
牛乳チーズヨーグルト(回/週) 31〜 29〜30 21〜28 16〜20 11〜15 〜10
アルコール(g/日) 0 or 84〜 72 60 48 36 1〜35
*アルコール量(g)=アルコール度数 x 飲酒量(mL)x 0.8
地中海型の食事については下記の記事を参照してください。
2017.1.9「☆「地中海型食生活」で精液所見が改善?」
2015.12.11「地中海型の食事は精子に良い」
2012.12.4「☆若者の食生活と精子」
女性の食事については、下記の記事を参照してください。
2015.5.4「☆子宮内環境は食事で変わる」
2012.11.8「☆妊娠中の栄養と出生児の健康:Barker仮説、DOHaD」
アルコールについては下記の記事を参照してください。
2013.2.25「☆妊娠を目指している方のアルコールは?」を参照してください。