本論文は、妊娠前のストレスと流産の関係について検討したもので、米国のLIFEスタディー(Longitudinal Investigation of Fertility and the Environment)からの報告です。
Hum Reprod 2018; 33: 728(米国)doi: 10.1093/humrep/dey030
要約:LIFEスタディーは、2005~2009年にミシガン州とテキサス州の16地域で登録した避妊中の501組の夫婦(女性年齢18〜40歳、男性年齢18歳以上)を対象に、避妊をやめてから1年間妊娠を目指していただき様々なパラメータを前方視的検討したものです。344名が妊娠し、このうち337名で妊娠前の唾液中のコルチゾール濃度とαアミラーゼ濃度(ストレスのパラメータ)を測定しており、これらの濃度と流産の関連について検討しました。なお妊娠判定は自宅での尿による妊娠検査キットを用いて行い、陽性反応を妊娠とし、陰性化あるいは生理になった場合に化学流産とし、医師の診断によりその他の化学流産および流産としました。平均年齢は、女性29歳、男性31歳であり、83%は高学歴の方でした。337妊娠のうち97名(28.8%)で流産および化学流産に至りました(平均6w5d)。唾液中のコルチゾール濃度およびαアミラーゼ濃度と流産および化学流産の関連は認めませんでした。
解説:およそ30%の方で流産あるいは化学流産に至ることが知られています。この半数以上は胎児染色体異常であるとされておりますが、本当にそうなのかは明らかではありません(化学流産の胎児絨毛染色体検査ができないためと、流産の方全てで染色体検査を実施していないため)。不育症の様々な要因が関与する場合ももちろんありますが、原因不明の場合も少なくないと考えられています。また、喫煙、飲酒、カフェインなどの嗜好品やストレスなどライフスタイルの関与も考えられています。ストレスと流産の関連については、賛否両論があり結論が得られていませんが、前方視的検討ではなく症例対照研究でのデータによるものでした。唾液中のコルチゾールとαアミラーゼはストレスを反映するパラメータとしてしばしば用いられています。LIFEスタディーでは、これらのストレスパラメータと妊娠までの期間の延長との関連が報告されています。本論文は、これらのストレスパラメータと流産の関連がなかったことを示しています。ただし、LIFEスタディーの集団は一般の方よりストレス度が低いことが示されており、本論文の結果が全ての方に当てはまるかどうかは不明です。
LIFEスタディーについては、下記の記事を参照してください。
2018.3.21「☆ヨウ素低下と妊孕性の関係」
2018.2.11「☆大気汚染と流産の関係」
2018.1.11「大気汚染による妊孕性への影響は?」
2017.10.24「流産に精液所見は関与するか?」
2016.10.17「夫婦の健康状態が妊娠に影響する」
2016.7.29「☆流産しにくい生活習慣とは? その2」
2015.6.6「職業や健康状態と精液所見の関連」
2015.2.20「PFOA暴露による妊娠糖尿病のリスク」
2014.11.29「流産後に次の妊娠までにかかる時間」
2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響」
2014.3.20「太ると精子が悪くなります」