新たな着床関連遺伝子 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、新たな着床関連遺伝子としてPECAM1を示したものです。

 

Hum Reprod 2018; 33: 832(中国)doi: 10.1093/humrep/dey022

要約:2014〜2016年に採卵を実施した40名(胚移植反復不成功22名、初回胚移植で妊娠した18名)の着床期子宮内膜を採取し、種々の遺伝子発現を比較しました(ケースコントロール研究)。なお、胚移植反復不成功とは、3回以上の胚移植を実施し4個以上の良好胚移植にて妊娠に至らない方としました。また、卵管因子不妊の18名の女性から、増殖期前期、増殖期後期、分泌期(=着床期)の子宮内膜を採取し、周期性変動の検討に用いました。ケースコントロール研究での遺伝子発現パターンを人工知能によるPCA分析により分析したところ、新たな着床関連遺伝子として、PECAM1、ICAM2、ITGB2、SELP、TEKが抽出されました。この中で、PECAM1は遺伝子レベルもタンパクレベルも共に胚移植反復不成功患者で有意に低下していました。また、PECAM1によって調節されているTGFβ1も同様に、胚移植反復不成功患者で有意に低下していました。PECAM1の周期性変動は、増殖期前期<増殖期後期<分泌期の順に遺伝子発現が増加しました。この周期性変動は、着床マーカーとして知られているHOXA10と同じでした。また、子宮内膜細胞株であるIshikawa細胞、子宮内膜上皮細胞、子宮内膜間質細胞の培養系において、PECAM1を枯渇させるとTGFβ1発現が有意に低下しました。

 

解説:着床関連遺伝子としてHOXA10とLIFが有名ですが、本論文は、新たな着床関連遺伝子としてPECAM1を示したものです。極めて洗練された素晴らしい研究だと思います。このような断片的なデータの積み重ねにより、着床のメカニズムが解明されるのでしょうが、道のりはまだまだ遠いと感じます。