原因不明不妊あるいは軽度男性不妊の方の治療方針 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2018.5.21「☆不妊治療をお休みしている時の自然妊娠の確率」の記事で、不妊治療をお休みしている時の自然妊娠の確率についてご紹介しました。その元になったINeSスタディーをご紹介します。

 

BMJ 2015; 350: g7771(オランダ)doi: 10.1136/bmj.g7771

要約:2009〜2012年に、オランダの17施設で、1年間妊娠を目指し妊娠に至っていない原因不明不妊あるいは軽度男性不妊の602組を対象(妻年齢18〜38歳)に、ランダムに3群に分け、その後1年間の追跡調査をしました(INeSスタディー)。①刺激周期体外受精で単一胚移植3周期の201組、②自然周期体外受精6周期の194組、③刺激周期人工授精6周期の207組。なお、③については、クロミッド2T連日投与あるいはFSH製剤75単位連日投与とし、16mm以上の卵胞が4個以上あるいは12mm以上の卵胞が6個以上の場合にはキャンセルとしました。また、原因不明不妊とは少なくとも片側の卵管が通っており、排卵があり、精液所見が正常なものとし、軽度男性不妊とは総運動精子数が300〜1000万としました。妊娠成績は下記の通りで、各群間に有意差を認めませんでした。

 

     ①刺激周期体外受精単一胚移植3周期   ②自然周期体外受精6周期   ③刺激周期人工授精6周期

出産率    52%(104/201)           43%(83/194)       47%(97/207)

多胎妊娠率  5.8%(7/121)            4.9%(5/102)        6.7%(8/119)

 

解説:本論文は、原因不明不妊あるいは軽度男性不妊の方には、①刺激周期体外受精で単一胚移植3周期、②自然周期体外受精6周期、③刺激周期人工授精6周期は、全て同等の妊娠率および同等の多胎妊娠率であるため、③の刺激周期人工授精6周期を1st choiceとして推奨するとしています。つまり、行きすぎた体外受精に歯止めをかけようという論文で、すぐに体外受精を行うのではなく人工授精もトライする価値があるというものです。クリニックによっては、すぐに体外受精を勧められるケースがあるようですが、今一度原点に戻ってみる必要があるかと思います。体外受精のみを実施しているクリニックではそれ以外の選択肢はありませんので、何でも行っているクリニックが望ましい妊娠治療の在り方ではないでしょうか。

 

下記の記事を参照してください。

2014.5.29「☆☆妊娠には「ニュートラルな気持ち」で!