本論文は、非男性因子に顕微授精が有効か否か検討した報告です。
Hum Reprod 2018; 33:1322(オーストラリア)doi: 10.1093/humrep/dey118
要約:オーストラリアのビクトリア地域で2009〜2014年に初回採卵を行った方14,693名を対象に、初回採卵の新鮮胚移植から全ての凍結胚を使い切るまで、あるいは出産まで、あるいは2016年6月まで、の国家データを後方視的に解析しました。体外受精は4993名に実施し胚移植は合計7980周期に行い1848名(出産率:37.0%/採卵、23.2%/移植)が出産しました。一方、顕微授精は8470名に実施し胚移植は合計13092周期に行い3046名(出産率:36.0%/採卵、23.3%/移植)が出産しました。およそ1/5の方は対象期間に3回以上の採卵を実施していました(体外受精群19.0%、顕微授精群17.9%)。全体の受精率は、顕微授精群(56.2%)と比べ体外受精群(59.8%)で有意に高くなっていましたが、この中には男性因子でない方も含まれています(顕微授精群36.8%、体外受精群64.0%)。原因別の採卵あたりの累積出産率は下記の通り(有意差は男性因子群のみ)。
体外受精 顕微授精
男性因子 35.9% 40.1%(有意差あり)
男性+女性 42.5% 36.1%
非男性因子* 39.2% 36.2%
合計 37.0% 36.0%
*非男性因子=女性因子+原因不明
解説:世界的に顕微授精の実施件数が増加の一途をたどっています。オーストラリアでは2005年に57.8%でしたが、2014年には67.5%に増加し、米国では1996年に36.4%でしたが、2012年には76.2%に増加しています。この間の男性不妊率には変化がありませんので、非男性因子での顕微授精の件数が増加していることになります。非男性因子の方に顕微授精を行う是非については議論が分かれるところであり、一定の結論は得られていません。同様に、顕微授精による胎児へのリスクについても議論が分かれており、有意差なしとするものとリスクありとするものがあり、こちらも結論が得られていません。これまでの報告は全て、周期別しかも複数胚移植時代のデータからのエビデンスであり、患者別かつ単一胚移植のデータはありませんでした。本論文は、世界初の患者別データであり、86%が単一胚移植ですので、バイアスの少ない研究であり、出産率の観点からみて非男性因子に対する顕微授精のメリットはないことを示しています。従って、必要な時に顕微授精を実施するというスタンスが望ましいと考えます。
なお、患者さんによっては、体外受精と顕微授精の受精率が同じでも、胚発生が体外受精で良好な方、顕微授精で良好な方、どちらでも良好な方がおられますので、実際はケースバイケースになります。その方に合った方法を選択するのが良いでしょう。