癌患者さんの妊孕性について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、癌患者さんの妊孕性について国家規模の統計を元にした調査です。

 

Hum Reprod 2018; 33: 1281(英国)doi: 10.1093/humrep/dey216

要約:スコットランド地方で1981〜2012年に癌の診断がついた40歳未満の方23,201名を対象に、2014年までの妊娠の状況を後方視的に検討しました。対照群として、年齢その他をマッチさせた10,271名を用いました。全体として、癌の診断以降の妊孕性は0.62倍に有意に低下していました。特に、乳癌、子宮頸癌、脳神経系の癌、白血病で顕著でした。妊孕性の低下は近年改善傾向にありますが、脳神経系の癌、白血病では改善が認められていません。しかし、ひとたび妊娠が成立してしまえば、出産率は癌患者さん(78.7%)も対照群(75.6%)も同等でした。

 

解説:癌患者さんの生存率が飛躍的に改善した現在、その後の妊孕性がどうなるかに興味がシフトしています。しかし、これまでに発表された米国(CCSS)と英国(BCCSS)のデータは、自己申告であったり、母集団に偏りがあり、不十分でした。また多くの研究では、エンドポイントを無月経や早発卵巣不全(POI)としており、直接的な妊娠成績の検討をしていませんでした。本論文は、癌患者さんの妊孕性について国家規模の統計を元にした調査であり、信頼度の高い研究です。