クラインフェルター症候群の受精卵の頻度は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、クラインフェルター症候群の受精卵の頻度を調査したものです。

 

Hum Reprod 2018; 33: 1355(イタリア)doi: 10.1093/humrep/dey110

要約:2013〜2017年にPGS(PGT-A)を実施した2826周期、7549個の胚盤胞の47, XXYの頻度を後方視的に検討しました。47, XXY は男の子の胚盤胞の3.5%(62/1794)に認められましたが、常染色体の異数性異常を合併する胚を除外すると0.9%(17/1794)になりました。なお、47, XXYと関連のある因子として、母体年齢と胚盤胞のグレードが抽出されました。

 

解説:1942年にクラインフェルターが9名の「小さな精巣+女性化乳房+精子形成細胞数低下」の症例を報告し、47, XXYが原因であることが明らかにされました。47, XXY以外にも48, XXXYや49, XXXXYや48, XXYYあるいはモザイク(46, XY/47, XXY)症例など同様な症状を呈する症例も含め、クラインフェルター症候群と名付けられました。クラインフェルター症候群の頻度は男児の0.1〜0.2%、不妊男性の3〜4%、無精子症の10〜12%に認められます。羊水検査や絨毛検査では0.2%(163/76526)との報告がありますが、受精卵の段階での頻度は報告されていません。本論文は、受精卵の47, XXY率を検討した初めての報告であり、0.9%とやや高くなっています。

 

出生児の47, XXY頻度(0.1〜0.2%)と受精卵の47, XXY頻度(0.9%)に違いが生じた理由として、①症状のない47, XXYが検査されないため実際の頻度より低く見積もられている可能性、②47, XXYは着床率が低い可能性、③47, XXYは化学流産や流産に至る確率が高い可能性、④調査した母集団が不妊症であるため一般の集団より確率が高い可能性が考えられます。

 

クラインフェルター症候群は、性染色体の不分離によって生じる染色体異常であり、母親と父親の両者の要因があり得ます。母体要因としては、卵子のM1あるいはM2での染色体の不分離であり、父親の要因としては、精子のM1での染色体の不分離が考えられます。クラインフェルター症候群の男性では、多くの場合にTESE(精巣精子採取術)が必要になります。クラインフェルター症候群と関連のある因子として、母体年齢と胚盤胞のグレードが抽出されたため注意が必要ですが、一つの論文で結論を導くことはできませんので、さらなる検討が必要です。