ユリプリスタールの肝障害について | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ユリプリスタールの肝障害についての経過報告です。

 

Fertil Steril 2018; 110: 593(ベルギー)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.06.044

要約:ユリプリスタールは、2012年2月にEU諸国で発売され、これまでに765,000人が使用しています。2018年2月、欧州医薬品庁(EMA)は、ユリプリスタール使用者の5名が薬剤性の肝障害に至り、4名が肝移植を受けたことを明らかにしました。これを受け、2018年2月、薬物リスク評価委員会(PRAC)は、ユリプリスタールの新規使用を控えるよう通達を出しました。しかし、2018年5月にPRACは、ユリプリスタールによる肝障害は証明されなかったとし、薬物の使用再開を呼びかけました。

さて、薬剤性肝障害に2種類あり、薬剤に本来備わっているものと特異体質によるものがあります。前者は誰に投与しても肝障害が用量依存性に生じるもので、後者はある特定の方にだけ肝障害が生じ用量依存性がないものです。薬剤性肝障害の基準は、肝機能の数値が正常上限の3倍以上というのが一般的であり、薬剤使用中止により数値は正常化します。また、ALTは肝臓特異性の高いマーカーですが、ASTは肝臓以外にも骨格筋や心筋からも産生されます。

ユリプリスタールのフェース1スタディでは160名のうち肝障害はゼロ、フェース2スタディでは152名のうち肝障害はゼロ、フェース3スタディでは1556名のうち肝障害は8名(0.5%)に認められました。8名の方全てユリプリスタールを10mg/日使用しており、5mg/日を使用していた方では肝障害は認められませんでした。さらにこの8名の方は全て薬剤投与中止により肝機能は改善しました。

従って、ユリプリスタールは薬剤性肝障害のリスク因子ではないと結論づけられました。つまりある種の特異体質の方にのみ限定的に生じた現象であり、ユリプリスタールのリスクをことさら重大に考える必要はないとしています。また、ユリプリスタール5mg/日では肝障害は生じていないので、この用量では間違いなく安全に使用できる薬剤であり、子宮筋腫の薬物療法として適応がある方には使用するメリットが大きいと考えます。もちろん、ユリプリスタール投与前の肝機能の事前評価により、もともと肝障害がある方には投与しないといった配慮が必要です。

 

解説:子宮筋腫の治療には、筋腫核出術、子宮動脈塞栓術(UAE)、MRガイド下集束超音波手術(HIFU=FUS)による手術療法と、GnRHa、ユリプリスタールによる薬物療法があります。海外では、ユリプリスタールの使用頻度が近年飛躍的に増加していますが、日本では現在認可されていない薬剤のためほとんど使われていませんでした。ちょうど日本で臨床試験が行われている最中に本論文にある使用中止の勧告がなされたため、日本の臨床試験が一時中断されました。使用再開のアナウンスが出されましたので、そろそろ臨床試験が再開するのではないかと思います。早く認可されて欲しい薬剤です。

 

下記の記事を参照してください。

2018.5.9「子宮筋腫治療における子宮温存方法の比較

2016.4.20「FUSによる子宮筋腫治療の効果

2014.12.11「子宮筋腫の新たな治療戦略

2013.9.30「☆子宮筋腫と妊娠