hMG/FSH製剤使用の人工授精は有効か? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、原因不明不妊の夫婦におけるhMG/FSH製剤使用の人工授精は有効か否かについて検討した初めてのメタアナリシスです。

 

Fertil Steril 2020; 113: 417(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.09.042

Fertil Steril 2020; 113: 333(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.10.022

要約:2019年3月までに発表された、原因不明不妊の夫婦におけるクロミフェン/レトロゾール使用の人工授精とhMG/FSH製剤使用の人工授精の比較に関する8論文2989名6590周期についてメタアナリシスを実施しました。クロミフェン/レトロゾールと比べhMG/FSH製剤使用の人工授精では、妊娠率は1.09倍に有意に増加しましたが、多胎妊娠率も1.06倍に増加しました。詳細は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

             臨床妊娠率        多胎妊娠率

キャンセル規定   相対危険度(信頼区間)   相対危険度(信頼区間)

なし         1.13(1.15〜1.23)    1.22(1.11〜1.31)

7個以上の発育卵胞  1.09(1.00〜1.20)    1.20(1.10〜1.31)

6個以上の発育卵胞  1.09(1.00〜1.20)    1.19(1.00〜1.29)

5個以上の発育卵胞  1.11(1.03〜1.18)    1.13(1.02〜1.25)

4個以上の発育卵胞  1.09(1.03〜1.16)    1.06(0.96〜1.18)

3個以上の発育卵胞  1.04(0.95〜1.14)    0.96(0.91〜1.03)

*15mm以上の卵胞を発育卵胞とする

 

             臨床妊娠率        多胎妊娠率

初回hMG/FSH量   相対危険度(信頼区間)   相対危険度(信頼区間)

不定         1.17(1.08〜1.26)    1.17(1.03〜1.32)

300IU以上      1.07(0.88〜1.31)    1.15(1.02〜1.29)

150IU以上      1.09(1.00〜1.20)    1.20(1.10〜1.31)

100IU以上      1.09(1.02〜1.18)    1.19(1.10〜1.29)

75IU以上       1.09(1.03〜1.16)    1.06(0.96〜1.18)

75IU未満       1.08(0.95〜1.24)    0.97(0.91〜1.02)

 

解説:本論文は、原因不明不妊の夫婦におけるhMG/FSH製剤使用の人工授精は有効か否かについて検討した初めてのメタアナリシスであり、hMG/FSH製剤を使用しても臨床妊娠率の有意な改善にはならず、キャンセル規定がゆるいと多胎妊娠率が増えるだけであることを示しています。従って、15mm以上の卵胞3個まで、hMG/FSH製剤75IUまででは多胎妊娠が増加しないので、そこまでを使用限界とするのが良いと考えます。

 

コメントでは、AMIGOSスタディFASTTスタディでも同様の結果を報告していることを指摘し、原因不明不妊の夫婦におけるhMG/FSH製剤のルーチンでの使用は推奨されないとしています。

 

AMIGOSスタディーについては、下記の記事を参照してください。

2018.9.28「アロスタティックロード(身体的ストレス)と妊娠の関係

2018.6.12「男女のうつ病、抗うつ薬と妊孕性について

2018.6.9「人工授精の刺激法 その2

 

FASTTスタディについては、下記の記事を参照してください。

2014.12.22「人工授精で妊娠するためのホルモンバランス