☆レトロゾール反応不良のPCOSにはレトロゾール延長投与が有効 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、レトロゾール反応不良(5mgx5日)のPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)にレトロゾール延長投与(5mgx7-10日)が有効であったことを示しています。

 

Fertil Steril 2023; 119: 107(中国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.09.018

Fertil Steril 2023; 119: 114(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.11.008

要約:2019〜2021年に上海の1施設で、レトロゾール5mgx5日により少なくとも1周期で卵胞発育(排卵)が起こらなかったPCOSの女性(40歳以下、男性因子なし)69名を対象に、第1周期はレトロゾール5mgx7日投与を行い、さらに卵胞発育(排卵)が起こらなかっ起こらなかった方の第2周期はレトロゾール5mgx10日投与し、結果を後方視的に検討しました。第1周期で48名(70%)で卵胞発育(排卵)が認められ、17名が妊娠し14名が出産しました。第1周期で卵胞発育(排卵)が認められなかった21名のうち第2周期で16名(23%)の卵胞発育(排卵)が認められ、5名が妊娠し3名出産しました。 最終的に卵胞発育(排卵)が認められなかったのは5名(7%)でした。なお、全ての方でトリガーは使用せず、OHSSはどなたにも認めませんでした。

 

解説:レトロゾールは、通常2.5mg/日x2日から開始し、5日間まで日数を増やし、最大5.0mg/日x5日(日本の薬剤添付文書上)まで増量できます(海外では7.5mgx5日)。本論文は、レトロゾール反応不良(5mgx5日)のPCOS女性にレトロゾール延長投与(5mgx7-10日)が有効であったことを示しています。これまでは、レトロゾール反応不良の方には、レトロゾール+クロミッド同時服用が良いと報告され(2019.4.4「☆PCOSにはレトロゾール単独よりレトロゾール+クロミッドがより有効」でご紹介)、実際にリプロでも多くの方に排卵をもたらしました。今回の方法も実施が簡単で、すぐにでも始められます。

 

1990年台に「FSH window/threshold」という考えがありました。弱い刺激を長く続けると卵胞発育が持続的に促進され単一卵胞が発育するというものです(J Clin Endocrinol Metab 1998; 83: 1292(オランダ)doi: 10.1210/jcem.83.4.4710)。この考えをもとに、レトロゾール延長投与の発想が生まれたようです。

 

コメントでは、レトロゾール反応不良のPCOSは20〜40%程度おられ、プレドニン併用、卵巣ドリリング手術、FSH製剤などが用いられてきたことを紹介しています。クロミッド反応不良のPCOSにレトロゾールを通常投与と延長投与を比較したランダム化試験は2009年に実施されています(Fertil Steril 2009; 92: 236(エジプト)doi: 10.1016/j.fertnstert.2008.04.065)。本論文は、症例数が少なく、対照群が存在しない、などの不備があるものの、実用的に大きく期待できる方法であるとしています。

 

レトロゾールについては、下記の記事を参照してください。

2022.2.19「レトロゾールの有無による刺激周期採卵の違い

2021.1.28「レトロゾールの新しい使用法

2020.7.5「一般妊娠治療における排卵誘発剤のお子さんへの影響は?

2020.6.19「乳癌の方の卵巣刺激法

2020.6.5「AMH値により人工授精の妊娠率は変わらない

2020.5.3「hMG/FSH製剤使用の人工授精は有効か?

2020.4.21「原因不明不妊:ASRMガイドライン

2019.7.30「着床障害の方に対する新しい試み:リュープリン+レトロゾール

2019.4.21「人工授精の調整前の精液所見は人工授精の予後を反映しない

2019.4.4「☆PCOSにはレトロゾール単独よりレトロゾール+クロミッドがより有効

2017.10.25「Q&A1621 ☆多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)でしょうか?

2017.8.17「やはり、PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ

2017.4.23「☆多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)における治療戦略」BMJ(メタアナリシス)

2015.3.8「☆PCOSの第一選択はフェマーラ」Cochrane review(メタアナリシス)

2014.11.6「PCOSにはクロミフェンよりフェマーラ!」N Engl J Med(RCT、N=750)

2017.1.11「☆フェマーラの安全性について