本論文は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)患者におけるAMH値と排卵率、妊娠率、出産率との関連を検討したものです。
Fertil Steril 2024; 121: 660(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.12.031
Fertil Steril 2024; 121: 614(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.038
要約:PCOS患者に対して3つのパターンの排卵誘発剤による治療を実施するランダム化試験(PPCOS Iスタディー)において、ベースラインのAMHを測定している無排卵性不妊症女性332名の、排卵および妊娠成績を検討しました(二次解析)。平均AMH値は、11.7ng/mL(0.1~43.0)でした。AMH値が1ng/mL増加するごとに、排卵率は10%有意に減少しました(オッズ比0.90、95%信頼区間0.86〜0.93)。結果は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。
排卵率オッズ比(95%信頼区間)
AMH値 症例数 交絡因子補正前 交絡因子補正後
<4 ng/mL 39 基準 基準
4〜8 ng/mL 90 0.75(0.16〜2.69) 0.90(0.18〜3.47)
>8 ng/mL 193 0.23(0.05〜0.68) 0.17(0.04〜0.56)
一方、AMHが極めて高い場合にも排卵は起こり、排卵が起こらない最大AMH値はありません。また、AMH値は妊娠率や出産率との有意な関連を認めませんでした。
解説:PCOSは、生殖年齢女性の不妊症と無排卵の最も多い要因です。AMHは現在PCOSの診断基準ではありませんが、排卵のある方と比べPCOSの方で2~4倍高いことが知られています。最近発表されたPCOSの国際ガイドラインでは、無排卵の評価およびPCOSの診断基準にAMHを含めることを推奨しています。しかし、PCOSのAMH値に関するデータが限定的であり、検査方法や年齢によるばらつきがあるため、明確なAMHのカットオフ値は規定されていません。本論文は、このような背景のもとに行われた研究でああり、PCOS患者のAMH値は排卵率と逆相関しますが、妊娠率や出産率との関連がないことを示しています。
コメントでは、これまでの研究では、症例数が少ない、妊娠転帰を調べていないものでした。本論文は、高AMHでも妊娠率や出産率には影響しないことを示しており、排卵を起こすことがキーポイントであるとしています。
N Engl J Med 2007 Feb 8; 356(6): 551(米国)doi: 10.1056/NEJMoa063971
PPCOS Iスタディー:PCOSの不妊女性626名を対象に、刺激法別にランダムに3群(クロミフェンのみ、クロミフェン+メトホルミン、メトホルミンのみ)に分けた前方視的検討(観察期間半年)
クロミフェン群 メトホルミン群 クロミフェン+メトホルミン P値
排卵率 49.0%(462/942)> 29.0%(296/1019)< 60.4(582/964) <0.001
出生率 22.5%(47/209) > 7.2%(15/208) < 26.8%(56/209名) <0.001
多胎妊娠率 6.0%(3/50) 0% 3.1%(2/65) NS
排卵周期の妊娠率 39.5%(62/157) > 21.7%(25/115) < 46.0%(80/174) <0.001
NS=有意差なし
N Engl J Med 2014 Jul 10; 371(2): 119(米国)doi: 10.1056/NEJMoa1313517
PPCOS IIスタディ:PCOSの不妊女性750名を対象に、刺激法別にランダムに2群(クロミフェン、レトロゾール)に分けた前方視的検討(観察期間5ヶ月)
クロミフェン群 レトロゾール群 P値
排卵率 76.6%(288/376)< 88.5%(331/374) <0.001
出生率 19.1%(72/376) < 27.5%(103/374) 0.007
多胎妊娠率 6.9%(5/72) 3.9%(4/103) NS
排卵周期の妊娠率 35.8%(103/288)< 46.5%(154/331) 0.007
NS=有意差なし
PPCOS IIスタディーについては、下記の記事を参照してください。
2022.3.18「妊娠率予測モデル」
2021.3.13「PCOSの早産はAMH高値と関連」
2020.7.5「一般妊娠治療における排卵誘発剤のお子さんへの影響は?」