フローラと流産:レビュー | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、細菌叢(フローラ)と流産の関連についてのレビューです。

 

Hum Reprod 2024; 39: 638(英国)doi: 10.1093/humrep/dead274

要約:ヒトの子宮内膜は、母体〜胎児の相互作用を仲介する極めて重要な組織です。半同種移植片である胎児は、この相互作用が崩れると流産に至ります。流産のリスク因子として母体の加齢過去の流産回数は揺るぎもない事実ですが、流産は多因子性であるため、子宮内膜の微小環境の関与は否定できません。近年、子宮内フローラがこれに関与する可能性が示唆されていますが、未だ正確なメカニズムは不明です。

 

膣フローラの異常は、ラクトバチルス優位性の喪失と菌種多様性の増加を特徴とし、子宮頸癌、性感染症、子宮内膜症、破水、早産との関連が示唆されています。また最近では、膣フローラの多様性と流産の関連も報告されています。しかし、膣フローラの変化が子宮内の事象に影響を及ぼし流産につながるメカニズムは不明です。あるいは、膣フローラの変化は、流産の原因ではなく結果なのかも知れません。子宮は長い間無菌環境であると考えられてきましたが、高感度で細菌を検出する方法(16SrRNA)が開発され、微量なフローラ検査が可能になりました。子宮内と膣内のフローラは似ているという報告も、似ていないという報告もあります。これは、子宮内サンプルの採取時に生じる細菌混入(コンタミ)の可能性があるためですが、この影響を完全に排除することはできません。子宮内フローラは、子宮内膜およびその局所免疫を調整し、着床に関与している可能性があります。

 

フローラ検査における「ベータ多様性」は、子宮内膜洗浄液サンプルでは有意に高いことが判明しましたが、子宮内膜細胞では有意差はありませんでした。最近の腟フローラ研究では、流産はウレアプラズマ増加と関連し、不妊症ではラクトバチルス優位が生産率増加と関連していることが報告されています。

 

プロバイオティクス(ラクトバチルス)が、ヒト樹状細胞からのHLA-DR、CD86、CD80、CD83、IL-12産生を抑制することが、in vitroの系で示されました。これは、ラクトバチルスが妊娠初期の免疫寛容を調節するメカニズムを有する可能性を示唆します。また、腟フローラ異常のある反復流産患者へのラクトバチルス投与により、妊娠と出産が成功したとの症例対照研究が報告されています。

 

解説:子宮内フローラと腟フローラを混同されている方がおられるかも知れませんが、子宮内のサンプルを採取する際に必ず膣内の細菌が混入します。現在のフローラ研究のエビデンスのほとんどは腟フローラによるものであり、子宮内フローラについては推測の域を超えていません。このような観点の元に、上記のレビューを読み直してみてください。

 

下記の記事を参照して受ださい。

2023.11.7「原因不明不妊に関するガイドライン:ESHRE

2023.6.1「日本人の腸内細菌叢

2022.3.19「☆膣内のラクトバシルスの有無は妊孕性とは無関係

2022.1.5「☆子宮内にラクトバシルスはそもそも存在しない!?

2021.3.25「☆抗生剤服用で膣フローラの変化は?

2020.2.12「卵胞液中の腸内マイクロバイオーム代謝物(TMAO)と卵子の質

2019.10.10「慢性子宮内膜炎と子宮内フローラ

2019.7.12「膣内フローラと妊娠成績

2018.11.13「子宮膣フローラ:システマティックレビュー

2018.8.26「異常妊娠における膣内フローラ、腸内フローラ

2018.8.23「子宮内および膣内フローラ

2018.7.14「無精子症の精巣組織のマイクロバイオーム

2018.4.10「☆子宮内フローラ検査について

2015.12.19「マイクロバイオーム