2023年


小野伸二が引退する。

中村俊輔と並んで時代の天才として素晴らしいプレーを見せてくれた。


何より小野は底抜けに明るかった。

あれだけの怪我をしても、J2で苦しい戦いを強いられても、代表でサイドに追いやられても


彼からは「サッカーが出来る喜び」が溢れ出ていた。

あれだけ天性の天才はもう出てこないのではないか。


足に吸い付くトラップ

どこで蹴ったかすら分からないダイレクトパス

美しい軌道のループパス


しかもそれがまるで大人をからかうイタズラっ子のような表情で、

これはどうかな?

次はどうかな?


と遊んでるかの如く魅せてくるのだ。


それは世界の舞台であっても変わらなかった。

EL優勝を決めたトマソンへのベルベットパス

クライフターントラップからのアシスト

ダイレクトでのループシュート


彼にとってはフィールドは大きな公園のように見えたのかもしれない。


ただただ遊んでいたら日が暮れた。


そんな少年のような明るさとサッカーへの愛情

彼はまさに太陽のようなサッカー選手だった



翻って中村俊輔は1人サッカーに打ち込み

いつでもサッカーのことを考え

ストイックに向き合ってきた。


そこには楽しさよりも

努力、苦痛、苦悶の表情と共に思い出される


彼のFKは計算されつくした

努力と準備の賜物だった。


世界の名手を上回り、打ち破る。



彼が輝くとき

それは一瞬の静寂が訪れたものだ。



言うなれば月のような存在。

静かな夜に美しく輝く月。

洗練された技術と、完成された造形。



そんな彼らが現役から去るのは寂しいものだ。



しかし安心してほしい




これからもサッカーは続く。


新しい星は次々に生まれてくる。

僕らはその幸せを噛み締めよう。



数多の努力と数多の天才が駆け巡るフィールドを眺めて


いつか誰かに自慢しよう。



「僕は小野伸二のパスを目の前で見たんだぜ」


「俺は中村俊輔のFKを直接この目で見たんだ!」



それこそ老害と言われるまで語り継ごう


どんなに次の才能が生まれても



あのプレーは凄かった



と昔に浸ろう。



それが出来るのは僕らが大人になった特権だ。



いくら振り返ったって構わない

記憶の中の最高のプレーは色褪せない。



それでいい



それでいい、と思うんだ。