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~巨人の抜け道~
リゴの町で必要なものを手に入れてお姫様救出隊は翌朝出発した。
また町に何か襲ってくるかと警戒していたけど、何も起こらなかった。
でも私は見た。
ゲルパさんが誰かと話しているのを・・・・・・。
「相手が誰か確かめるんだった~」
悔やまれる。
「しょうがないわよ、身動きできない状態だったし」
少なくとも黒いマントのようなものを着ていたのはまちがいない。
「黒いマントかあ・・・お姫様をさらっていった魔法使いもそんな感じだったよね。もしかしたら・・・・・・」
「あのヒゲキツネがその魔法使いとつながってるって言うの?」
ヒゲキツネ・・・。
それはキツネさんに悪い・・・って私も結構なこと言ってるし。
「でもそれならなんとなく話しのつじつまが合うと思わない?ひょっとして王子さまをどうかしてお姫様を狙ってるとか」
「だとしたら相当年下趣味ね」
やっぱり違うかあ・・・。
「アン」
王子様の声だ。振り返ると王子様と側近に人たちがいた。・・・当然のごとくヒゲ・・・ゲルパさんも。
「さっきから妖精と何を話していたのだ?」
「たいしたことじゃないわよ。次の町に着くのはいつなのかとかお姫様はどうしているかとか」
「・・・そうだな、姫・・・今も無事ならよいが・・・・・・」
神妙な面持ちの王子様。
「大丈夫よ。お姫様の側にはレイナがいるから」
「レイナ?」
「ああ、まだ王子様には言ってなかったけ?私のお友達」
「一緒にさらわれているのか?」
そっか、王子様は隠れてたから魔法使いと一緒にドラゴンに乗っていたレイナに気づいてなかったんだ。
「・・・うん。レイナに何かあったら絶対私気づくはずだもん。レイナが無事ってことはお姫様も無事だよ、きっと」
レイナはともかくお姫様が無事かどうかは本と言うと自信無かった。
でも王子様にこれ以上不安な思いさせたら、きっとまた前のように閉じこもってしまう。
そんな風にはしたくなかった。
リゴの町を出てお日さまが真上くらいに来た頃、私たちは深い谷間を通っていた。
左右には岩の壁が高く伸びて、前は終わりが見えないほど谷が続いている。
船の中にいても特にすることも無いので、私はイッちゃんとほとんど甲板に出ずっぱりだった。
「すごい谷だねイッちゃん。」
「この辺では”巨人の抜け道”なんて呼ばれてるらしい」
周りを警戒している兵隊さんが教えてくれた。
「ふ~ん、巨人の抜け道かあ」
「昼の休憩はこの谷の中になりそうだ」
「当分この谷からは出られそうにないもんね」
それから間もなくお昼ごはんのため、進行はストップした。
~つづく~
~2年後・・・~
アヌの村から逃げた私は、小川を進み大きな川へ飛び込んだ。
流れに身を任せ下流へ・・・下流へ・・・・・・。
いつの間にか意識を失っていた。
その間ずっとアヌの村のことを思い出していた気がする。
優しかったお父さん、お母さん、長老さま・・・・・・。
そしてレマお姉さまや村のひとたちみんな・・・・・・。
でももうみんないなくなってしまった。
村もなくなってしまった。
私はどうしたらいいの・・・・・・?
それからぼんやりと気が付いたのは川岸だった。
海に近い所だったのはなんとなく覚えている。
どうにか生きて流れ着いたようだ。
でもその後のことはよく覚えていない。
いつ立ち上がったのか、どこを歩いたのか・・・・・・。
もう一度目を覚ました私は車の中にいた。
私を助けてくれたのは、私と同じくランバの国から脱出した人たちだった。
アクルおじさんとマーサおばさん。
車で国境を越えたところで、私が道端に倒れていたのを発見したらしい。
そして二人は子供がいなかったことからそのまま私を引き取ってくれた。
大きな悲しみの中、私は新しい家族を得る幸せに出会えた。
2年後・・・・・・。
私たちはウィルノムに隣接しているダネーバという国で暮らしていた。
私たちが住んでいるのは国境近くのオズルという町。
大きな町ではないけどみんないい人たちばかり、私は今は学校にも行っている。
戦争は相変わらず続いていたけど、ダネーバは平和だった。
ダネーバはウィルノムと同盟を結んでいるため、ウィルノムの軍隊も駐留している。
そのためゴゾンやカルカラの国も
簡単には攻められないのかもしれない。
だけど、ゴゾンもカルカラも勢力を益々大きくしていっているようだ。
報道ではゴゾンとカルカラの衝突が多くなってきたため、ウィルノムやダネーバのある東部は今のところ落ち着いた状況になっているというようなことを言っていたけど・・・・・・。
そのまま戦争が終わってくれたらいいのに。
ヒュー・・・ン。
私はお母さんに頼まれたお使いに隣りの大きな街へ行っていた。
「やば~これじゃあ帰るの夜になっちゃうかも。またお母さんに怒られちゃうよ。」
夕陽がもう山に掛かっていた。
オレンジ色の景色の中、私はエアバイクのスピードを上げた。
法廷速度の範囲内で・・・・・・。
オズルの町に近づいた。
お母さんに怒られてもその後は楽しい夕食が待っている・・・はずだった。
「・・・何?火事?」
オズルの町の方角から煙がいくつも上がっていた。
不吉な予感が胸にグサリと刺さった。
「・・・そんな・・・まさか・・・・・・! 」
体の中を恐怖が支配した。
この予感が本当でないことを神様に祈りながら、私はエアバイクを飛ばした。
~つづく~