疾走 | 剣竿一如

疾走

 いよいよ明後日が左肺腫瘍と左背筋内肉腫の手術なんだが、執刀医のM山先生から、「日常生活や執筆活動には不自由はしないけれど、仮面ライダーとかアクションの世界は無理です」 と宣告されている。まぁね、年も年だし、ほぼ引退状態だったし、この病気に罹ってから何のトレーニングもしてないから、諦めはつく……ってモンなんだが、先輩であり師匠である伊藤久二康さんと交わしていた、現場復帰の約束は守れなくなってしまった。リハビリを頑張り、久二康さんの指導でトレーニングを積めば、バック宙やバック転くらいは楽勝だと思っていたンだけどね。もう、二度と跳べない、変身できないと思うと、チト淋しい。いや、メッチャクチャ淋しい。

 思えば5歳の頃、ウルトラマン、ウルトラセブンに憧れ、10歳の頃には仮面ライダーに感激し、「いつかウルトラマン、仮面ライダーになりたい!」 と夢見たンだが、その夢は叶った。そして11歳の頃から釣りにハマり、「いつか釣り雑誌や新聞に記事が書ける、いっぱしの釣り師になりたい」 と願った。コレは小学校の卒業文集にも書いてある。この願いも叶い、釣り情報誌2誌に連載を持ち、スポーツ新聞や夕刊紙から寄稿依頼が来る様になった。40歳の頃、「お国のお役に立つような記事を書いてみたい」 と漠然とした思いを持っていたら、国交省関連の機関誌にコラムを書くようになれた。

 こうして己が人生を顧みれば、なんとも運の良い、願えば叶う幸運に恵まれた人生を歩んできたワケだ。普通、ウルトラマンだの仮面ライダーだの戦隊ヒーローだの、なろうと夢見てなれるモンじゃないよ。子供の頃の夢、で終わっちゃうわな。いっぱしの釣り師つったって、釣りマニア、ディープな釣り好きで行き止まりだよ。せいぜい釣り情報誌紙に釣行記を投稿して、採用されればラッキーってなレベルでしょう。それが自分は一度も投稿した事はない。釣行記やコラムは執筆依頼、寄稿依頼を受けて書く、連載記事は自分で企画を持ち込んで書く、ってな恵まれた環境を手に入れてきた。本当に幸せな男なのだよ。

 今現在はどうなんだ、って? それがだね、「毎日ゴロゴロ寝て暮らしたい。昼間ッから寝てても金が入ってくりゃいいのになァ……」 なんて考えていたら、叶っちまったよ。多種併発、多臓器転移の末期ガンで8ヶ月も入院して、毎日ゴロゴロしてても誰にも叱られない、むしろジッと寝てろと言われる身分になった。金はガン保険が入ってくる。元気に働いていた頃よりも、はるかに収入が増えちゃった。しかも夢の非課税だぜ。もうね、形はどうあれ、願ったり叶ったりなワケだ。

 次々と発症するガンにも、あの手この手で対応してくださる医療スタッフに囲まれ、家内には毎日、献身的な介護をしてもらい、みなさんからはお見舞いや応援の電話、メッセージ、メールを頂戴し、実に幸せな日々を送ってます。こんな幸せな身の上で、何の不満がありましょうや。てか、今すぐ死んじゃったとしても、変身できなくなって淋しいくらいで、何の未練もない50年を駆け抜けた、まさしく、「我が生涯に一片の悔いなし!」 ですよ、ってお話でした。

 うっしゃ、我が身の幸せを噛み締めながら、明後日の決戦第一陣、来週の第二陣を闘ってくるかァ~! 心の奥で陣触れ太鼓とホラ貝が鳴っておるわ。って、抗ガン剤の副作用による耳鳴りか(笑)。