J side




Ωに変化して、社長への想いが募るほど

抑制剤の効果が弱まり、ヒートの頻発が顕著になって行った。



あの急な出張の日も

部屋だって別だろう、もしかしたら泊まらないかもしれないのに、社長と一泊する事になるかもしれない・・・そう思うと、身体が火照り始めるのを感じた。


もしかして、ヒートが始まった・・・?


嫌な予感がして、カズから渡されている抑制剤を社長に隠れ服用したけど、効いたように思えたのは一時的なもので。

先方との交渉が成立する直前、ズクズクと

また身体が熱を持ち始めた。


普段、僕が社長の体調の変化に気付くよりずっと早く、僕の体調の変化に気付いてくれた社長。


僅かな変化しか出ていないはずなのに

僕を気にしてくれていて

普段から見てくれている・・・?


こんな状況なのに

秘書として社長に気を遣わせるなんてあってはならないのに、そんな事がとても嬉しかった僕は、秘書失格だ。



先にホテルで休ませて貰い、社長から電話があった頃には、疼く欲求に逆らえず自分で慰め、幾度か果てた後で。


それでもまだ治まらない熱と満足しない身体を持て余し、交渉成立のお祝いを述べ会話を終わらせようとする僕に



『いいから!すぐに鍵を開けろ、社長命令だ。』



部屋の前まで来ていた社長から強い口調で命じられる。

社長がαだからか、僕の仕えるべき人だからか

社長命令と言われると、僕は何故だか逆らう事が出来なくなる。



10分だけ時間を貰い、バスローブ姿のまま冷水を浴びて火照りを鎮めようとしたけど、鎮まるどころか社長が来ると思うともっと身体が熱く、お臍の奥の方がキュンと疼いた。


当然ながら温かいシャワーに切り替えても

僕の呼吸は荒くなり、どうにもならない事に逃げ場を失う。


もう・・・終わりだ。

Ωだって知られてしまう

一番知られたくなかった彼に

寄りによってこんなに恥ずかしい程欲している僕を見られてしまう。


こんな僕じゃあもうきっと・・・社長の傍には置いて貰えない・・・



流れるシャワーをそのままに

フラフラと浴室から出ると部屋の鍵を解除し

ベットに潜り込み、身体を丸めた。




僕を心配し、布団を捲った社長が



『熱があんだろ?何やってんだ。大丈夫か?』



ゾクリとする程に鋭いαの雄の目をして

僕の耳元で響かせるように囁く。



ああ、僕から出るフェロモンが社長の事を誘惑し、ラットへと導き始めているんだ。



「はぁ・・・はぁ・・・、社長・・・」


 

社長にこんな事したくないのに

社長が欲しくて欲しくて、自分のソコが

受け入れる準備をしているのを感じる。



「・・・悪かった。詳しい説明は、また聞く。」



だけど、社長はふいに瞳から欲望の色を消し

部屋から出て行こうとした。



どうして・・・?

僕が欲しくないの?

嫌だよ

何処にも行かないで



咄嗟に社長を手を僕は掴んでいた。



「社長・・・、行かないで・・・傍に・・・」



引き留める僕に戸惑いながら、身動きせず上から見下ろす社長に



「っ!違う、違う!

早く・・・離れて・・・っ、僕から・・・はぁ・・・」



こんな事

許されるはずが無い

尊敬する社長に、こんな僕から誘うような事しちゃいけない



ヒートのせいで正常な判断が出来なくなっている自分を否定しながら



「・・・苦し・・・い、・・・あぁっ・・・社長、たす・・・け・・・て・・・、はぁ・・・ぁ」



そんな僕の抵抗を、嘲笑うかのように覆い尽くし、僕を支配したヒートの辛さと、この人に抱かれたい欲望が抑え込めなくなって。


僕は涙を流しながら吐息を洩らし、社長に縋っていた。