J side




社長とひとつになった時

今まで感じた事のない快 楽からの絶 頂に加え

身体だけじゃなく

心の隙間まで埋め尽くす満たされた感覚に

ヒートに身体を乗っ取られながらも頭の片隅で

この人が僕の運命の番なんだと、本能的に悟った。



だからこんなにずっと、不思議なほど社長に強く惹かれていて

この人の為にβだった僕は、Ωに変異したんだってわかった。



気を失うほど何度も果てて

目が覚めて社長に覆い隠すように抱きしめられていた。



幸せだった。

ずっと恋焦がれていた社長と

こうして朝を迎えるなんて

まだ夢でも見てるのかなって思った。



社長と僕の視線が合って

社長との間に少し隙間が出来ていた僕を

その逞しい腕が引き寄せる。


社長の体温と、落ち着くけどときめく、香水じゃない彼の匂いに包まれた。


胸が苦しい。

ヒートじゃないのに、鼓動が速くなって

呼吸の仕方を忘れてしまいそうになる。



社長はどこまで自分の魅力に気付いているんだろう。

厳しい人なのに優しくて

紳士なのに子供みたいな所もあって

可愛いらしい顔立ちなのに男らしくて


そんな社長にこんな色っぽく見つめられたら

僕は・・・まだずっとここでこうして

あなたに溺れていたくなる。




だけど

カズからの電話で自分の犯した罪の重さに

我に返った。



吸い寄せられ、社長とひとつに溶け合ってしまいそうな身体と心。

引き剥がすかのように慌てて社長から離れ

電話に出てから、シャワーを浴びに向かった。


ヒートは終わっているのに、熱くなってしまう身体を鎮め、昂まる想いを、ずっとずっと包まれていたかった社長の匂いを、洗い流した。





社長を自宅に送り届けながら

僕の頭は恐れでいっぱいだった。


カズへの罪悪感を持ちながらも

考えるのは社長の事で



生まれつきの育ちの良さからか

誰より誠実で真っ直ぐな社長は

欺かれる事、嘘をつかれる事を極端に嫌う。


もしかしたら今までも、社長の地位や恵まれた立場を利用しようと近付いて来た人達が多かったせいなのかもしれない。


Ωに変異した事以外は、社長には忠実で至誠を尽くそうと思っていたけど

今回の事で僕が嘘をつき、社長を騙していた事がばれてしまった。


もう秘書として仕える事が出来ないんじゃないか・・・そう思うと、怖くて怖くて仕方なかった。


仕事を失う事がじゃない。

社長の傍に居られる理由を失うのが怖かった。



覚悟を決め、自分の過去やΩに変化した経緯を伝え昨夜の過ちを謝罪すると、社長は怒る事無く、静かに冷静に僕に言ってくれた。



『・・・気にすんな。昨日の事は事故で、応急処置みたいなもんだ。心配性な彼にも秘密にしとけよ。気分を害して、俺の有能な秘書を取り上げられても困る。』


『これからは、抑制剤は早めに飲むこと。俺に嘘はつかない事。じゃあ、明日からも宜しく頼む。』



そう言い残して車を降りた社長に

僕も慌てて車を降りて



『ありがとうございます!これからも宜しくお願いします!』



ホッとして緊張の糸が緩んで

泣きそうになりながらも、嬉しくなった。


まだ社長の傍に居られる・・・!

そう思うと謝罪して直ぐにこんなの不謹慎だって思われるかもしれないけど、自然と笑顔になっていた。



もう、社長にどんな嘘もつかない。

いくら好きでも昨日みたいな迷惑は掛けない。

傍に居られるなら、それでいい。

ずっと僕の気持ちは心の奥底に・・・。



それなのに

社長に部屋に上がらないかと言われて

着いて行きたくなった。


優しい社長は、僕が気にしていると思って、軽い気持ちで部屋に誘ってくれたんだろう。



『ありがとうございます。ですが今日は、この後用事が・・・』



カズの部屋に行く約束をしていた。


今日はもうこれ以上、社長と二人でいたら

カズの元へ戻れなくなりそうで

同時に


『潤君、泣かないで』


って、ずっと僕を心配してきてくれたカズの顔が浮かんできた。



・・・カズの所へ行かなくちゃ。




自分の本心に抗い、カズが待っていると断るのがやっとで。

社長に婚約者に愛されているんだなって言われた時は、複雑な気持ちが表情に出てしまった気がする。



これから婚約者に会いに行くのに

カズは大切な人なのに


社長にお辞儀して、車を出した時

胸がギュッと痛くなって

僕の身体と心を半分、社長の元に置いて行くような感覚に、涙を堪えた。