J side
それからの社長は、言っていた通りにタイトなスケジュールをこなし、大野室長と二人で社内外を慌ただしく飛び回っていた。
「はぁ-・・・」
「どうされました?副社長。」
「もう俺、こんなの覚えられる気がしないんだけど・・・」
社長の弟で副社長の竜也さんが、嘆きながら机に突っ伏した。
「大体俺は、副社長にだってなりたくなかったのに。それを海外支社の立ち上げに行けだ、挙句に急に今後の為に社長業も知っておけって次々言われてもさ・・・兄貴のハイスペックと俺のノーマルな頭脳を一緒にすんなっての。」
「そんな事ないですよ、副社長は正しく理解して順調に業務をこなしていらっしゃいます。
さすがは社長のご兄弟だと私は感服いたしました。」
「よく言うよ・・・。
でも兄貴の秘書の松本さんにそう言って貰えると、ちょっと自信が湧くかも。」
「ふふっ、そうですよ。もっと自信持ってください。少し休憩されますか?お茶の用意が出来ました。」
忙しくしている社長の代わりに諸々の業務が副社長に割り振られ、それに伴って今社長が関わっている案件を副社長が頭に詰め込む。
仕事人間の社長が関わる事業となると膨大な数で、隙間時間で社に戻った社長や大野室長にこなしておくよう指示される内容と量に、竜也さんはうんざりしているようだった。
それでも、不満を口にしながらも真面目に的確に仕事をこなしていく様は、さすが優秀なαで社長と同じ櫻井家の血筋と言える。
「うまっ、松本さんの淹れるコーヒーってこんな美味いの?!」
「そう言っていただけると光栄です。ありがとうございます。」
淹れたてのコーヒーに、甘党なのか竜也さんは砂糖とミルクをたっぷり入れて、コーヒーと言うよりはカフェオレになっているそれを美味しそうに飲んだ。
眼光の鋭さに加え、社長に注意されても頑なにそこだけは譲ろうとせず、変える事の無い銀髪ウルフな髪型。
仕立てが良く、品のいいスーツに身を包んでいるとはいえ、そんな尖った外見とのギャップが可愛らしくて口元が緩む。
「てかさ、兄貴こんなに忙しくしてて身体は大丈夫なのかな・・・寝る間もないんじゃない?」
確かに・・・いつも忙しくされている社長だけど
明日に控えた僕とのデートの時間確保の為とはいえ、今までない多忙を極めている。
ちゃんと睡眠時間は足りているんだろうか。
直ぐに無理をして、休息を省く傾向にある社長の事が心配になる。
そして、ここで同じように社長の事を気にかけている竜也さんが居てくれる事を、何だか嬉しく感じた。
社長の多忙の原因となっている僕が、そんな事を思うのもおかしな話なんだけど。
「そんな風に心配されて・・・副社長はお優しいんですね。」
「だって俺、重度のブラコンだもん。兄貴に何かあったら生きてける気がしねぇし、兄貴に嫌な事する奴がいたら全力でボコるし、兄貴には誰より絶対幸せになって欲しいし!」
竜也さんは語気を荒げ熱量高く力説した。
「ふふっ、社長はお幸せですね。こんな頼もしい弟御様をお持ちで。」
その外見から気性が荒く見られがちな竜也さんが、社長の前で、素直な従順キャラに激変するのを見た時は目を疑った。
それはまるで、寄る者全てに牙を剥く様な、酷く凶暴な番犬が、飼い主の前でだけは嬉しそうに尻尾フリフリお腹を見せ、服従のポーズを取っている姿とよく似ていて。
副社長が、兄としての社長を慕い信頼し、懐いているのが見て取れた。
「・・・どうかな、そうだといいけど。」
「勿論そうですよ、秘書の私が保証致します。それに、副社長が御兄様想いのお優しい方だと言うことも。」
自信なさげに呟く竜也さんにそう告げて、にっこり笑ってしっかりと頷くと、竜也さんは嬉しそうに、だけど照れ臭そうな顔をした。
それから暫く僕の目の奥を探るように見つめると
「あのさ・・・、松本さんにだから言うけど・・・」
ぽつりぽつりと話し始めた。
本当の兄貴になりましたー!!
メッセージお返事出来なくてごめんなさい。
嬉しかったです!いつもありがとうー♡