J side




「あー面白ぇ、腹痛てぇわ。」



居酒屋で向かい合わせに座る翔くんは

お腹を抱え、ヒーヒー言いながら

傍から見て大袈裟なくらいに笑っている。



「ねぇ、笑いすぎだって!そんなに笑われると恥ずかしいじゃん。」

「ごめんごめん!だって潤ってさ、見た目と中身のギャップと言うか、とにかく俺の笑いのツボなんだよ。ホント、潤と一緒に居ると楽しいわ。」



笑い過ぎて滲み出た涙を指で拭う姿に少しだけムッとしながらも、最後の一文には俺も同感。



「潤とは気も合うし、他の奴と遊ぶより断然居心地がいいんだよ。お前と出会えて良かったよ、マジで。」



そんな

俺が女の子だったらドキッとしてしまいそうな台詞を吐きながら

手にしたタバコの煙に目を細める翔くんは

男の俺から見ても相当なイケメンだ。



そのイケメン度数は

どれくらいかって言えば




「えっ?それは俺も・・・、うん、嬉しいよ、ありがと。」

「へぇ、嬉しいんだ?」

「やっ、・・・いやいや、嬉しいというか、そのっ、つまりさぁ・・・」




待て待て、

嬉しいって言った俺、キモかった?


この流れでお礼を言うのが間違いだった?


優しい翔くんは、きっと社交辞令混じりに俺を持ち上げてくれただけなんだろう。

俺以外の友達に出会えた事だって

マジで良かったって思ってるに違いない。


それを、それをだよ?


真に受けた俺

自意識過剰な変な感じになってない?


空気読めない、痛いヤツみたいじゃね?


やっぱりこの返しはアウトだったよなぁ・・・

つか、正解は何?


正解か不正解かって、誰がジャッジすんの?


やっぱり神様なの?




って、俺の頭ん中がパニくるくらいの

イケメンの暴力。





「やっぱり神様なの?って何だよ。」

「え?怖い怖い、神様って何の話?」

「今そうやって潤が言ってたろ。」

「うそっ、うん、なんでもない。

独り言だから気にしないでよ。」

「独り言多すぎだろ。寂しがりかっ」



翔くんはクックックッと肩を揺らして笑った。



やばい。

心の中の声が、口から出ていたようだ。




「寂しがりじゃねぇし。」

「その顔面の強さで寂しがりとか・・・、ウケるぅ。」

「だから寂しがりじゃねぇっての!

俺は確かに独り言は多いけど、ぼっちで寂しがり屋だからブツブツ言ってる訳じゃないし、交友関係そこそこあるし!」

「あるし?」

「だから!翔くんが思ってるよりは俺、ブツブツ言ってないと思ってるよ!」



ムキになって否定する俺を見て

翔くんは堪らんとばかりに

ブフーッと吹き出した。



「ふはははは、潤、マジで最高だな。腹筋がやられる・・・ぐははははっ」



だめだ、これは。

暫く笑い続けるやつだ。




・・・俺、そんな面白いか?

(ウケて満更でもない)




それにしても翔くんて

相変わらず笑い上戸だよな。


楽しそうに笑う翔くんを見てると俺も

自然と頬が綻ぶ。



・・・良かった。

翔くんに俺の見当違いな動揺はバレていなかったらしい。



そうだよ。

翔くんて、昔から鈍いとこあるもんね。





「んで、新しい女は出来てねぇの?」

「何?急に。」

「いや、潤が交友関係そこそこあるって言うからさ、女絡みも広がったのかなって。」

「まあ・・・それは別だよ。そっちには広がってない。」

「そうなんだ。・・・実は前の彼女に未練あるとか?」



笑いが収まった途端、翔くんは

射抜くような視線で真っすぐ俺を見つめる。

俺の頭の中と心の中を探られ、尋問されてるみたいで変に緊張してドキドキしてくる。



探られて困るような

疚しいことも、隠し事も

あるはずないのに。




「いや、それは無いよ。今は一人でいいかなって思ってるだけ。」

「ふぅーん、珍しいじゃん。」

「翔くんは?翔くんこそ、ずっと恋人居ないでしょ。そろそろ新しい彼女作ればいいじゃん。未だ現れないの?翔くん好みの人。」

「現れてないし現れそうにねぇよ。

俺の理想が高すぎるのかなぁー、自分でもその好みってのが具体的にはわかんねぇから探しようもないんだけどさ。」

「インスピレーション的な出会いしかないのかもね?」

「まあな。でもさ、別にいいんだよ。

恋人なんて出来なくても、こうして潤と会ってたら満足。」



タバコを持つ手とは反対の手で

テーブルに頬杖つきながら今度は優しい眼差しでニッコリ笑う翔くんに、何故だかドキンと俺の胸が高鳴った。