J side





大学三年の俺と翔くんは、高校2年の時のクラスメイト時代からの友人で。

知り合って直ぐに意気投合し、高校時代は

毎日のように遊ぶ仲になっていた。


他にも一緒につるむ仲間はいたけど、兎角

翔くんとは気が合った。

よく笑う、陽気な彼と居るのは楽しかった。



翔くんは同い年だけど面倒見のいい兄貴肌で、冷静な面もあるからか、よく皆から悩み相談なんかも受けるタイプの人で。


俺も翔くんには、当時の恋人と何かあると愚痴ったり相談にのってもらったり。


何となく一人で居るのがカッコ悪く思えて

途切れることなく彼女を作っていた俺に対し

翔くんは、俺と知り合った頃既に付き合っていた彼女と高2のクリスマス前に別れてからは、ずっと恋人を作らずにいた。


だからと言ってその彼女に未練がある訳ではなく、単にこの人だ!と思える相手と出会っていないようだった。



実際当時の彼女には、翔くんの方から別れを告げていた。

好きだと思って付き合い始めたけど、段々『何か違う』と感じるようになり、別れたらしい。


翔くんに夢中で、関係が上手くいっていると思っていた彼女は泣いて怒って、別れたくないと相当ごねた。

それがまた彼を冷めさせていき、彼女は執拗になり、修羅場へと化していったようだった。



ストーカーの一歩手前、着信の嵐に

根負けして通話に出れば

『翔が居ないなら生きていたくない』と

脅迫めいた言葉の羅列。


それでもよりを戻さない翔くんへの愛が憎しみに変わったのか、彼女は

ありもしない翔くんの悪事を周りに吹聴する始末。

一時的にだけど、それを信じた奴も数人いて

翔くんを取り巻く事態はなかなかヘビーなものだった。


元々、人気者で人望も厚い彼だったから

誤解はすぐ解けたとはいえ

今思い返してもあの頃の翔くんは、酷く疲れていた。


そんな状況下に置かれたら当然だけど、疲労困憊するとは彼の為にあるような言葉だった。



『翔くん、色々お疲れさん。』

『・・・おう。』



ただでさえ撫でているのに、やつれて更に撫でて見える翔くんの肩を励ますつもりで

ポンポンっと叩きながら


"こんな風には絶対なりたくない!"


と、心底思ったもんだった。




翔くんはそれからもモテていたけど、付き合うという事に慎重になっていき、どんな美女に告られても断ってばかりいた。


あんな事があったせいで、女性不信にでもなったのか?と案じたけど、そういう訳ではなく


『慎重に選ぶようにはしてるけど、単に好きになれそうにないから断ってるだけ、ピンと来る相手なら付き合うよ。

前ならOKしてたくらい可愛い子なのに、俺の中でひっかからねぇの。

女の好み変わったのかもなー。』


と言っていた。



逆にあんな事があっても女性不信にならない翔くんのメンタルは、エグいぐらいに鋼だなって感心した。




高校を卒業し、顔面偏差値だけでなく、頭脳の偏差値も高い翔くんは、俺よりずっとランクの高い大学に合格し、俺達は高校時代みたいに毎日顔を合わせる事はなくなった。


だけどこうしてお互いの近況報告を兼ねて

12ヶ月に一度、2人で会っている。



若い男が集まれば、異性の話題になるのは自然な事で下ネタで盛り上がる事だってある。


翔くんも男だ。

いちいち言わないだけで、きっと適当に

合コンだとか女遊び位はしてるとも思う。


だけど

彼の口からはまだ一度も

「彼女が出来た。」

と告げられたことは無かった。



翔くんが次に恋人を作るとしたら、相当に惚れ込んだ相手なんだろう。


いや、もしかしたら恋人を作る気にずっとならなくて、このまま一人でいるのかも。


友人としては心配だけど

俺も当分一人でいたいし、こうして二人で遊べたらそれはそれで楽しくていいかな。



この時の俺は勝手にそう考えていた