J side




「どうりで寒いはずだわ、息が白いじゃん。

潤、ちょっと手貸して。」

「ん?はい。って、え?!」



会計を済ませ店を出ると翔くんは

差し出した僕の手を握り、自分の上着のポケットに突っ込んだ。



「な、ちょっと何してんのっ」

「だって外に出たら寒いんだもん。こうすると暖かいじゃん。」

「いやいやいやいや、恋人同士じゃあるまいし、他の人が見たら変に思うでしょ。

「そうかぁ?夜だし大丈夫だろ。それに他の奴ならともかく、潤と俺なら変じゃねぇだろ。」

「いくら友達の俺とだって、周りから見たら確実に変だって!」



翔くんは、友達との距離感がわかっているんだろうか。

長年付き合ってるけど、たまに不安になる。



「何だよ、ケチ。わかったよ、人が来そうになったら離してやるよ。でもそれまで、潤の体温を俺に分けてくれ。」



全然わかっていない翔くんは

嫌がってポケットから抜け出そうとする俺の手を、もっと強くギュッと握って



「ほら、あったけぇじゃん。な?」  



至近距離で俺の耳元に囁く声が

イケボ過ぎるから



「・・・うん。」



俺は抗う気もどこかに吹っ飛び

頷く事しか出来なかった。






「わぁ-・・・、綺麗」



繋がれた手、速くなる鼓動が

擽ったくて、気まずくて


誤魔化すように見上げた夜空は

いつもより星が輝いて見えた。



「本当だ。やっぱ冬の空は澄んでて

星も綺麗に見えるよな。

こんな事なら、たまにはこうやって冬に外歩くのも悪くねぇかも。そう思わねぇ?」

「うん、何だか得した気分だよね。」



見つけた俺より嬉しそうにはしゃぐ姿を見て、翔くんにはずっと笑ってて欲しいなって


その隣にはずっと 

俺がこうして居れたらいいなって


この感情の正体がなんなのか

見つける気にはならなかったけど


凄く、強く、願った。




「でもさ・・・」

「ん?」

「星を見上げた潤の目の中にも星が映ってて、こっちもすげぇ・・・綺麗だ」

「・・・っ、」



そう言って顔を近づけてくる翔くんは

少し声が掠れて

いつもよりずっと色っぽくて



「はいはい、そういうのは好きな女が出来た時にやるやつじゃん。俺で練習すんなって」



大袈裟におどけて

強引に繋いだ手を離し、顔を背けなくちゃ



キスされるかと勘違いして

こっちからしちゃいそうだった。



男の俺にそんな事する訳ないのに。




 

「ん?好きな女なー・・・出来るかな、俺。」

「出来る出来る」

「ふはっ、他人事だと思って、軽っ!」



そんな俺の動揺なんて気付いても居ない翔くんは、ケラケラ笑う。



「軽くていいんだよ。

彼女出来なくたって、俺がいるじゃん。」



声には出さず心の中で

そう呟いていた・・・つもりだった。



「何だよー潤、可愛い事言いやがって。

そうだよな、俺にはお前がいるもんな。」

「・・・っ!!」



嘘だろー!

また声に出しちゃってたのか-・・・

どうしちゃったんだよ、今日の俺。


自分の事

コントロール不能になってきてるみたいで

ちょっと怖いぞ。



「・・・そうだよっ、俺がいるし。」



焦りつつも、慌てて話を合わせた。




「まぁお互い当分フリーだろうし、また近々会おうぜ。定期的に潤を摂取しとかないと俺、無理だわ。」

「え・・・?」



やっぱり俺、おかしいのかな。

今日の 翔くんの言動が

いちいち俺の胸の中を刺激する。


ドキッとかキュッとかギュギュッとか

心臓が忙しない。



「大学生って勉強とバイトで忙しいじゃん。そんな毎日の疲れに、潤と会って、笑いでエネルギーチャージ!」

「はい?・・・笑いでって、人のことなんだと思ってるんだよ。」

「マジんなんなって、俺には潤がそれだけ必要って事だよ。」



お笑い担当みたいになってるのかと

少しムッとしたけど



必要って事なら

・・・まぁ、いっか。



何より俺も

翔くんとは会いたいし・・・。




「飲みばっかじゃなくてスキーとかもいいよなぁ。たまには遠出でもしようぜ?旅行行こう!」



今度は俺の肩をガバッと抱いて

目をキラキラ輝かせる翔くんの方が



夜空の星より

ずっとずっとイケてるよって思った事は



絶対声に出さないように

慎重に大切に

心の中に閉じ込めた。