J side




「わっ!・・・びっくりした。何でいんだよ。」



家に着くと、偶然にも同じタイミングで帰宅した姉ちゃんと、玄関でガチ合った。



「たまたまよ。そんな驚かなくても家族なんだから、同じ家に帰ってくるの当たり前じゃない。」

「まぁ、そうだけど・・・。」



そうだけどさ。



「・・・ねぇ、潤。」

「・・・っ、あー疲れた。風呂入って寝よっと。」

 


姉弟仲は良い方だと自負してるけど、何かと俺のあらを探し、揶揄う癖のあるこの人。


今関わると面倒い事になると弟の直感が働いて、早々に自分の部屋に逃げようと思ったら



「あんた、デートでもしてきたの?」



案の定、ニヤニヤしながら俺の腕を掴んできた。




ほらな。


どデカいネタでも見つけたみたいに

すっごく嬉しそう。


芸能人のスクープなんてのは全く興味ないくせに、昔から俺の恋愛関係には鼻息荒く

興味津々。



『多分、ブラコンなのよ。

あんたが可愛いから、変なのに捕まってないか心配なだけ。』



なんていい姉ぶって言ってたけど、俺の事弄って楽しみたいだけなのはわかってる。


思い返せば、人生初の彼女との初デート。

緊張の余り挙動不審連発で、彼女に冷められ振られた黒歴史でもあるあの日。


実は姉ちゃんに尾行されていて、家に帰ってからダメ出しの嵐だった事は、ずっと根に持っている。


その時の姉ちゃんの顔が楽しそうだった事も

悪い意味でずっと忘れねぇ。



「は?デートじゃねぇし。」



だけど残念だな。

今日は違う。



「隠さなくてもいいじゃない。」

「何を隠すんだよ、友達と会ってきただけだわ。」 



そう、友達の翔くんと会ってきただけ。

あれはデートなんかじゃない。



「じゃあその友達の事を、あんたは好きなんだ。」

「はぁー?!」

「今はまだ片想いなの?それとも両想いってわかってるけど、付き合おうか焦らしてる時?」

「馬鹿かっ、相手は男だっつーの。」



好きじゃない事はない。

友達だから、そういう意味では好きだけど

姉ちゃんの言う意味の好きではない。



・・・と思ってきた、ずっと。




「えっ?!」

「えって、え?!」



俺の返事を聞いた途端、姉ちゃんのニヤついた顔は、望んでもないのに未確認生物を確認してしまったレベルの驚きと戸惑いの表情へと一気に変化していった。



・・・つか、何でそんなに驚く?




「ええー?!」

「ええー?」

「あちゃー・・・」

「あちゃー・・・?」

「・・・ワーオ。」

「・・・ワーオ。って、そろそろ止めろよ。」



小ちゃい頃、いつも姉ちゃんの後を着いて回って、真似ばかりしていた俺は

未だにこうして、咄嗟に彼女につられ、オウム返しのように同じ反応をしてしまう時がある。


習性って怖い。




「そっちだったか-」



俺の声なんて聞こえていないように

姉ちゃんは手を額に当て、下を向いて左右に頭を振った。

この動作と表情にピッタリ合うセリフは

"オーマイガー"だ。



「もう何だよ、意味深な事ばっかり呟きやがって。翔くんと会ってただけだろ。」

「翔君って櫻井君?」

「うん、そう。で、何なの?」 



話がちっとも進まない。



「あんた、今の自分の顔を鏡で見てみなさいよ。」

「え、何かついてる?!

さっき最後に食べた、おにぎりのご飯粒とか?!」



は、恥ずかしいー・・・

翔くんも、ついてたなら教えてくれよ。

そのまま電車乗ってきちゃったじゃん!


慌てて口の周りを手の甲で拭う。



「違うわよ。どんだけわんぱくな食べ方してきてんのよ。」

「違うのかよ!」



姉ちゃんは、また頭を左右に振ったけど

今度は"ヤレヤレ"と言うセリフがピッタリ合うタイプのやつだった。




「あんたはさ、嬉しそうな、熱があるような、蕩けたような・・・要は"俺、恋してます!"って顔してんのよ。」

「恋・・・?!」



昔から姉ちゃんに指摘される事は

毎回鋭くて

的を得ていて



「そう。好きな人と会ってきた直後だから隠しきれてないやつね。」

「・・・マジで?」

「櫻井君の事、好きなんでしょ?」

「好きっていうか・・・いや、何となくは・・・考えた事が無かっただけで、もしかして・・・?」



そんな姉ちゃんに言われると

俺は急にそんな気がしてきて



そうか、だからか。



やたら翔くんのせいで心臓が忙しかった事も納得がいく。



「あんた達、昔から怪しかったもんねぇ。」

「あ、怪しかったって・・・?」

「ここじゃなんだから、私の部屋に来て。

今からミーティングよ。」

「は、はい。」



そんで、姉ちゃんの指令には幾つになっても

素直に従ってしまうのも俺の習性だったりする。