J side




「久しぶりに会ったせいか、妙に照れくさいよな。」



数ヶ月ぶりに二人の行きつけの居酒屋で

いつもみたいに飲んで食べて

ふざけ合って笑って


なのに今日の俺たちには

どこかよそよそしいような

ふわふわしているような

雰囲気が流れている。



翔くんを好きだって気付いて

想いを伝える覚悟で来ているから

俺がそうなるのは仕方ないにしても


翔くんも

俺をチラチラ伺うように見たかと思えば

何か言いたげにじっと見つめて来るから

どうしたのかと見つめ返せば

視線を逸らし誤魔化す。




甘い予感を含みながら焦れったく

歯痒いこの感じ。




・・・もしかして、翔くんも俺に言おうとしてくれている・・・?



だとすればいつもとは違う

俺たちを包む空気にも合点がいく。



そう思うと途端に勇気も湧いてきて



「翔くん、今日さ、話したい事があるんだけど・・・」



俺からでいい。

一秒でも早く

想いを重ね合いたい。



抑えきれなくなってる気持ちに急かされ

手のひらに汗をかきながら

口を開くと



「お前も?実は俺もなんだ。」



やっぱり翔くんは、そう言った。





「それじゃあ、翔くんからどうぞ。」



どうせなら言われた方が嬉しいし・・・

土壇場で受け身に逃げ、翔くんに先を譲ると



「俺から?・・・まぁいっか。話って言うのはさ・・・、あー!なんか今更恥ずかしいな。」



恥ずかしがる翔くんと同じくらい

俺まで恥ずかしいような嬉しいような

落ち着かない気持ちで言葉を待つ。





「あのさ、〜〜よしっ、言うわ。」



こうやって翔くんを見ると

今まで感じていたよりずっとカッコよくて

ずっと大好きだったんだって、

この気持ちに気付いて良かったー

翔くんと幸せになるよ。

姉ちゃん、ありがとう!


なんて

俺の中でどんどん気持ちがふくらんで

先走っていく。




「俺ね?」

「・・・うん。」




翔くん

早く聞かせてよ。




「潤はびっくりするかもしれないけどさ・・・」




大丈夫。

驚いたりなんてしないよ。


俺の答えはYESしかないんだから。








この度めでたく、やっと俺に彼女が出来ましたっ!」




だよね?

勿論、俺の返事は・・・




・・・




・・・?




・・・・・・??






え?

今、何て言った?




「彼女・・・?」

「そう、久しぶりに漢(オトコ)櫻井翔!

彼女持ちになりました。」

「・・・話したい事って、その報告?」

「うん。こんな事改めて言うのって、恥ずかしいし緊張するなー!って潤、びっくりしねぇの?」





・・・ふーん。


彼女出来たんだ。


なーんだ。



「びっくりしてるよ、びっくりし過ぎて

言葉も出ないって言うか。

おめでとう、良かったね。」



そっか。



会えない間に

ちゃんと翔くん、恋してたんだ。


俺なんかじゃない

他の誰かに。




「おう。それで潤の話ってのは何?」




翔くんも俺を好きだなんて

俺と姉ちゃんの勘違いで


会いたくて

恋しかったのは


俺だけだったんだ。



「俺?俺はさ・・・そう!なかなか恋人出来ないから 、どうしたらいいか相談しようかと思ってさ。でもそれはいいよ、今日はお祝いしよう。

翔くんが数年ぶりに恋人が出来たんだから

うんと飲もうよ!」

「お祝いとかやめろって、恥ずかしいだろ。」




早く酔わなくちゃ。

シラフじゃ俺、今は無理だ。




本当に良かったね!なんて言いながら

俺は今までにないくらい沢山飲んで

無駄に騒いで。



あんなに一緒にいると楽しくて

ずっと隣に居たかった翔くんと


少しでも早く別れて帰りたいって

この日、初めてそう思った。