J side




「帰って来んのおっせぇよ。こんな時間までバイトかよ。」

「・・・まあ、・・・うん。」




久しぶりに目の前に立つ翔くんに

油断すると泣いてしまいそうなくらい

俺の感情は揺さぶられた。




ああ・・・やっぱり

俺、凄く翔くんに会いたかったんだ。



会いたくて会いたくて

でも絶対に今会っちゃ駄目だって思う程に

恋しかった。



会ってしまったら

こんな恋心を嫌でも

自覚してしまうのがわかってたから


もう恋人がいる翔くんを

必死で避けていたってのに・・・。





「お前、少し飲んできた?酒くせぇぞ。」



いつになく不機嫌そうな翔くんは、俺に近付くと更に顔を曇らせた。



そんな表情すら今の俺には愛おしく感じて

余計に苦しくなる。




「仕事終わりにバイトの子達と少しだけね。」

「は?俺と会う暇はない癖に、他の奴と飲む時間はあるんだな。」



やたらシフトを入れていたのもあって

バイト仲間から遊びに誘われる事は多くなった。

その気にならなくて、断ってばかりいたけど



たまには付き合うか。



重い腰をあげて誘いに応えた日に限って

翔くんが現れるとか

何となく気まずくて言い訳じみた返答をした。



「一杯だけだよ、誘われてもいつも断ってたから。」



飲んだって言ったって

バイトの延長みたいな感じだったし


俺が誰かと何したって

翔くんにとやかく言われる筋合いはないんだけど。


ただ、ずっと翔くんから逃げていた手前

後ろめたさはあった。




「翔くんこそ、こんな時間にどうしたの?」



話題を変える俺に、翔くんは未だ納得いかないようだったけど



「車見せにきた。」

「車?」

「今日、納車だったんだ。急に欲しくなって親ローンで買った中古だけどな。」



ほら、あそこって指差す方向には、一台の車が停めてあった。



「潤に見せたくて来たのに、まだバイトから帰って来てないってお前の姉ちゃんに言われて。上がって待ってるかって聞かれたけど、それも悪いから外で待たせて貰ってたんだ。」

「・・・そっか、ごめん。」

「とりあえず乗れよ。車の中で話そうぜ。」



翔くんは俺の腕を掴んで車まで連れて行くと

助手席のドアを開け、半ば強制的に俺を車の中に押し込んだ。