S side




「放せねぇよ・・・潤が好きで好きで、ずっとどうにかなりそうだったのに。」



とっくに抑えきれなくなっていた想いを告げると、潤はその大きな瞳を見開き、信じられないとばかりに俺を見つめた。



途端に



友達なのに、同性なのに

抱き締めてキスして

好きだって言って


俺に対し、友情以上の感情を持たない潤には

こんなの迷惑でしかないんだろうって


勝手な事しといて

泣きたくなった。




わかってたはずが

俺の潤への想いを簡単に否定されて


やっと会えたのに

俺の傍からまた居なくなろうとするから

ブレーキが利かなくなって暴走してる。



これ以上は駄目だ。

悪い冗談だと言って早く離れろ。

潤を一生失う事になるぞ。



頭の片隅で、僅かな理性が俺に訴え掛けるけど

こうやって潤に触れられるのも

想いを告げられるのも

どうせ今日が最初で最後なんだ。


そう思ったら、もう何も

取り繕って隠す気にもなれなかった。



いや違う。


一度この腕に抱いてしまった想い人を

俺から手放すなんて出来なかったんだ。



どれだけ願っても手に入らない相手なら

このままいっそ、とことん嫌われて

友達より遠い関係になってしまうのも潔いだろう。



もうどうだっていい。

友情だけで成立していたあの頃には

二度と戻れないんだから。





一体いつからお前を

こんなに好きになったんだろうな。



今まで見てきた潤の

かっこいいところ


わかり易い冗談すら真に受ける純粋さは 

揶揄うには面白くて

それ以上に堪らなく可愛くて


優しい気遣いの天才でもあり


繊細なのに、有り得ないくらいの対極な鈍感さを持ち合わせているところが

焦れったくもほっとけ無くて

傍で守ってやりたくて

(鈍感なのは俺もだとよく言われるけど)


お前の魅力は羅列し尽くせないほど

無限にあるけど


ひとつ確かだと言えるのは

俺が高校時代の彼女と別れたのも

その後ずっと

理由をつけて恋人を作らなかったのも

そこに潤の存在があったからなんだ。


 


気づけばお前を目で追っていた。


2人で過ごす時間はいつだって

楽しくて1秒でも長く一緒に居たかった。




当たり前みたいに俺に腕を絡ませ

笑顔を見せる当時の彼女を、疎ましく感じ始めた頃。

こうして俺の隣にいるのが他の誰でもなく、潤ならいいのにと何度も想像した。

潤となら、どれだけ一緒に過ごしても

飽きる事なんてないのだろう。 



''翔くんっ。''


俺と腕を組み、ニコニコ笑う潤が目に浮かぶ。



いやいや、腕を絡ませるのはダメだ。

男同士なんだからっ・・・//。


頬が赤くなるのを感じつつ、誰に向けてなのか慌てて心の中で訂正をする。


なのに、口元が綻んでしまっている理由には

目を向けていなかった。




あの頃は

短いスパンで恋人を変えていた潤。


美人と評判だった女の子が潤の恋人になった途端、前は綺麗だと思えた子だったのに

十人並のありふれた顔に見えた。


潤にはもっと愛嬌のある、可愛いらしい顔の人が似合うと思った。



少しして、保護欲を掻き立てると男共から人気のあった、可愛いらしい顔立ちの相手に恋人が変われば、息を飲む程の美人じゃなきゃ潤には釣り合わないと不満だった。


今思えば、潤の恋人に嫉妬していた。





お互いフリーになってからは

そんな想いはどんどん膨れ上がって行った。


そこでやっと俺は

潤に友人としてではなく

特別な感情を持っているんだと自覚した。



知ってるよ。

やっぱり俺も相当鈍いんだ。



認めてしまった潤への恋心は

息苦しいくらい、俺の心の中を占めていった。


それでも想いを告げて、お前を失うのが怖くて

ずっとこのままの友人関係で我慢しようと思っていた。



いたけど、


もしかして潤も、気づいてないだけで

俺を好きなんじゃないか?


そう感じた事が度々あった。



何せ、俺もあいつも常識に囚われすぎて

そこにあるものを見落とすところがある。


同性への恋愛感情なんて、あってはならないもの、最初から存在しないものだと思い込んでいるのではないか。

俺がそうだったように。



そこで俺は一計を案じた。


と言っても、俺に恋人が出来たと思えば、潤も自分の気持ちに気づいて素直になるんじゃないかと言う

、とても稚拙なものだったけど

これが二人の関係を変えていくトリガーになればいいなと思った。


なのに思い通りにいかないのが潤で

自惚れていたのが俺で。


俺の恋人の出現を

潤は嬉しそうにテンション高く喜び

お祝いまでしてくれ

あろう事か、俺を避け始めた。


気遣いの潤だから、俺の恋人への

過剰なまでの思い遣りからなんだろう。

実際は、恋人なんて出来ていないのに。



逆効果だった。

俺達の関係は進展どころか

停頓してしまった。


それどころか、あまりに俺と距離をとりたがる潤に

段々俺は不安になってきた。


もしかして潤にこそ

新しく誰かいい人が現れたのでないか。


友達でしかない俺なんかより、その相手と過ごす時間を優先しているんじゃないか。


居ても立ってもいられなくなった。



潤に会いたかった。

会いたくて会いたくて

俺の存在を思い出させたかった。

友達でもいい、俺を忘れないで欲しかった。


バイトだ何だと言い訳出来ないよう

親父に頼み込み、別に欲しくもなかった

車を購入した。


どんな理由でもいい

潤に会う口実が欲しかったんだ。



『・・・俺の為?・・・そんな事の為に、わざわざ車買ったの?』

『そんな事ってなんだよ、俺には大きな理由だわ。』

『そんな事だよっ、バカじゃない?』



こんなの普通じゃない。

友達の為にここまでするって気持ちわりぃよな。

潤の言う通りだよ。




でもさ

お前への想いは



『バカじゃねぇよ。』



わかってよ。

苦しいくらい本気なんだ。