カーテンコールRP | Live Free!! Climbing Free!!

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自由でありたいけれど、自由になれない、クライマーの日々

『Climbing is Believing』とか『志士は溝壑に在るを忘れず』という言葉はロクスノを全部読んでる人なら目にしていると思う。こういう言葉を発信するクライマーには遠く足下に及ばないけど、自分が登れそうもない難しい課題や、山頂まで果てしなく遠い大きな山に向かう時は、いつも頭の中でそれを反芻してきた。

今回トライしたルートは、まさにそうしなければ闘えない威圧的な課題だ。夕方まで陽が差さないルンゼの奥でどっ被りのワイド。それがカーテンコールとコーラスラインだ。

コーラスライン(右のワイド)は去年発表前に登らせていただいた。今までに経験したことの無い形状と傾斜で、頭の先から爪先まで全身を使って頑張る好ルートでした。

今年はコロナやら子供の小1の壁(エルキャプよりでかく感じる…)にぶち当たり半年まともに岩を触れていなかったけど、今月はたまたま瑞牆に行ける休日ができ、更に幸運なことにワールドクラスのワイド好きな方々と一緒に登る機会を持つことができた。これが後々完登に繋がることになった。

トライ初日は本当に半年振りのワイドで岩も乾き切っておらず、我ながら無謀と言っていいトライだった。筋肉痛と関節痛になりに行ったようなもので、1便出した後は、登る前に着ていた服がきつくなったと感じるくらい全身パンプした。半年振りのまともなクライミングとしては劇薬過ぎた感もあったけど、眠っていた心身の目を覚ますには十分だった。

ある程度ムーブはできたので、下界に帰ってからは妄想を繰り返し続けた。思えば下界でムーブを妄想するのも久しぶりだった。半年前はこれが当たり前だったのに。

ただ、いくら妄想しても繋がらない箇所があって、どうせそこはグラウンドしないだろうから突っ込むという結論に達した。

週末の仕事と家族サービスを挟み、トライ2日目。この日は家の都合で早帰りしなければいけなかったけど、パートナーの方々に快く了承してもらい助かった。どのみち1便でボロボロになるのは目に見えているので、早く帰ることに抵抗はなかったけど(ビレイできなくてごめんなさい)。

前回から雨は降っていないようで、状態は良好。相変わらず取り付きのスラブとワイドの入り口は濡れていたけど、百聞は一登に如かずなので気にしない。

以下、備忘録なのでムーブに触れます。





作戦は出来るだけ高い所にカムを入れて、フィストでぶら下がれる所までは突っ込むことにした。とにかく物凄い傾斜(帝王くらいあるらしい)で上に行く程狭くなるので、チキンウイングは直ぐ使えなくなり、アームバーと使える凹みを使って真っ向勝負。

少し(実際はかなり)頑張ると持てるホールドが出てくるので、これを握り倒し、足はクラックにねじ込んだままフィストを決める。ハングの抜け口にカムを入れて後は突っ込むだけなのだけど、この乗っ越しが激悪で、いくらハングドックしても
妄想しても繋がらなかった。

あれこれ試すけど体が上がらず。しかし手はハンドジャムとガバを持っているので、ここで諦めたらクライマーとしてどうなんだと思い最後まで頑張った。幸い前回上手い人がやっていたムーブに近い動きをしたらこれが上手くいき、天井レイバックみたいなムーブで乗っ越すことができた。

この時点で息が上がり過ぎて吐きそうだった。上手く挟まれる所があったのでレストできたけど、暫くの間全然息が整わなかった。

これで終わりかと思いきや最後までダメ押しの被ったワイドがあって、体に力が入らず本当に落ちそうだった。途中のカムが外れていたので、落ちたら多分死ぬかもしれなかったし…。


やっとの思いで終了点に這い上がり完登。疲れすぎて下にいる仲間の声に応える余裕も無かった。文句無しに今まで登ったルートの中で一番全力を出したトライでした。


元々登れる状態の期間が短い上に、付き合ってくらる人も簡単に見つからないようなエリアなので、今回登れたことは本当に僥倖だったと思います。花崗岩登ってると年に1回くらい奇跡のように登れる日があるけど、今日はそういう日だったんだろうな。

そして、こういう厳しい場所にとびきり難しいワイドを開拓した初登者は本当に凄いと思います。自分は汗と染み出しで濡れた程度だったけど、初登者は本当に物凄い苔と泥と砂等々にまみれたんだろうな。

色々な要素が絡んで完登することが困難なルートは、努力だけでなく執念も必要になってくるけど、それは全て初登者の執念の上にあるものだと思います。この寒く暗いルンゼには、初登者の情熱や執念が感じられるルートがありました。

こんなに明るい時間に下山することは滅多に無いので、こういう瑞牆も新鮮でした。今年は下界で憂鬱な日々を過ごすことが多いけど、その気分が全て吹き飛ぶような1日でした。