五月二日から滞在していた彼が、地元に帰った。

目的は退職などの手続きと・・・【彼女】と別れる為。



この一ヶ月間・・・本当にいろんな事があった。

今回の滞在から、彼の呼称はとーちゃんに変わった。

最初・・・娘(六歳)が、ふざけて呼び始めたのがきっかけになり彼はとーちゃんと呼ばれるようになった。

普段、私は彼の事を○○さんと名前で呼んでいたんだけど、彼の希望により『とーちゃん』に変えた。私も名前で呼ばれていたのが『かあちゃん』になった。

『私としては・・・今までどおり名前で呼んでほしいなあ』と、伝えたんだけど・・・こんな些細な事が彼にとっての自信に繋がるのなら・・・ま、いいか。

くだらないような事でも・・・彼にとってはある意味ステージアップになったようだ。

今まで・・・一度も彼の口から語られる事のなかった『家族像』

『本物のとーちゃんになったら・・・』とか『一緒に暮らし始めたらこうしたいんだけど・・・』なんて言葉がみられるようになった。

一ヶ月間・・・私と子供達と暮らしてみて自分なりの展望があるらしい。

・・・もっと早くそんな言葉が出ていたら私達は・・・って言葉を飲み込む。

とりあえず・・・彼の前ではニコニコしながら話を聞いている私がいる。

信じなきゃ・・・信じなきゃ・・・信じなきゃ・・・と、心の中で呪文のように繰り返す。


『埼玉の家に【家】として帰るのはこれが最後だよ。これから【帰るところ】は、かあちゃんと子供達が待っている場所だから。待っていてくれるよな?すぐに帰ってくるから』

そういい残して彼は帰った。



昼過ぎに地元の駅に着いたとメールが入った。

『寄り道してかえる。家から電話するよ。』

・・・心が騒ぐ。

信用していないわけじゃない。だけど・・・。