平成の 源平ならぬ 父子合戦~第1回神戸マラソン完走記12 | 神社仏閣旅歩き そして時には食べ歩き

神社仏閣旅歩き そして時には食べ歩き

還暦を過ぎて体にトラブルが出始めて、ランニングを楽しめなくなりました。近ごろはウォーキングに軸足を移して道内の神社仏閣を巡り、御朱印を拝受したり霊場巡礼を楽しんでいます。いつかは四国八十八ヶ所巡礼や熊野詣をすることが夢です。by おがまん@小笠原章仁

12.光るゴールゲイトへ・・・


 ところがこのとき、私はすっかり忘れていたことを思い出しました。この時計は、正確なグロスタイムを計測していなかったのです!スタートのタイミングを間違えて時計を押してしまったため、20秒か30秒か余分に加わっています。ということは、4時間まで16分台ではなく、17分以上残っているはずです。17分ならば、最後の力を振り絞れば、まだ走れるかもしれません。イチかバチか、足がもつかどうか、全力で走ってみる価値はあるでしょう。1度切れた希望が再びつながりました。この足でどれだけ走れるかわかりませんが、まだまだ諦めるには早すぎます。


 意を決して、ペースを上げました。痛む右足をかばいながらの走りです。これまでの順調な走りと比べたら、バランスもめちゃくちゃになっています。でももうバランスなど気にしていられません。文字通り最後の力を振り絞り、あごが上がろうと、首が横に倒れようと、腰が落ちようと、めちゃくちゃなフォームでもかまわないから、ともかく必死で走ります。


 このあたりはキャンパスエリアということもあり、学生さんたちも精一杯応援してくれています。でも消耗した私はもはや、応援に応える力も残っていません。ごめんなさい。皆さんの応援に応えるために、なんとしても4時間を切れるよう頑張ります。すべての力を、足を動かすことに集中させました。


 40kmのラップは5分47秒です。わずかですがペースが上がり、6分を切りました。5分台のラップを見るとホッとしました。私の時計はほぼ3時間48分をさしています。残り2.195kmを12分。これに加えてあと何秒の余裕があるのか、微妙なところです。


 スタートボタンを押し間違えたとき、まさか最後の最後でこんなことになるとは思いませんでした。でも正確な時間がわからないからには、1秒でも速く走れるよう全力を尽くすしかありません。


 40km地点にある最後のエイドは立ち寄らず、テーブルから一番遠いところを走りました。給水のロスタイムすら惜しかったですし、スピードを緩めずに走れるラインを選びました。左カーブを2度曲がり、長い直線に向きます。広々とした直線路。ここは全力で走りたいところです。でも右のふくらはぎにおかしな力を加えると、さらに激しい痛みに見舞われ、下手をすると走れなくなってしまいそうです。右足を着地するたびに、そして地面を蹴るたびに、痛みに襲われる恐怖と戦いながらの走りでした。


♪ねえ待ってて光るゴールゲイトで そう絶対にたどり着いてみせる


 今年の北海道マラソンのテーマソングだった加賀谷はつみさんの「君がいる」です。最近の私には、この曲が苦しいときのパワーソングです。この長い直線に入ったとき、私の頭の中でリフレインを始めました。そう、ここでくじけるわけにはいきません。絶対にたどり着きます。絶対にたどり着いてみせます。絶対に4時間以内でたどり着いてみせます。気持ちで負けるわけにはいきません!


 41kmの表示が見えてきます。時計を止めてラップを確認すると、5分19秒となっています。よし、これなら大丈夫!と思った次の瞬間、疑問が生じます。いや、そんなにペースが速くなっているはずはない。これを鵜呑みにしてはいけない。案の定、41km地点の表示から残り1km地点の表示まで、1分半近くかかってしまいました。わずか200m弱にそんなにかかるはずがありません。


 もうここまできたらラップを気にしても仕方ありません。いずれにせよ、あと1kmくらいでゴールです。時間にして5分あまり。最後までふくらはぎが耐えてくれることを祈りながら全力で走るのみです。1秒でも早くゴールにたどり着くこと。考えるべきことはそれだけです。


 右カーブを2回曲がり、最後の直線に入りました。ゴールゲイトが見えることを期待したのですが、そんなに甘くはありません。数百m先にあるはずのゴールは、まだまだ見えません。見えてくればそれが力にもなるのですが・・・。


 見えないゴールを気にするよりも、今は全力で走ることだけを考えよう。視線をゴールがあるはずの先の方ではなく、ちょっと前方に落とし、必死で走りました。走ってさえいれば、確実にゴールは近づいてくるはずです。


 最後の直線ということで、周りのランナーもラストスパートに入っています。1人、2人と私を抜いていきます。でも私も必死で食らいついていきます。自分よりちょっと速い人を目標にして追いかけた方が、見えないタイムに向かって走るよりずっと走りやすいですから。


 ときおり視線を前に送ると、遠くにゴールゲイトが見えてきました。もうすぐです。でも、思うように近づいてこないのがとてももどかしく感じます。


 42km表示を過ぎてからだったでしょうか、ゴール地点でのアナウンスの声が聞こえてきました。


「さあ、4時間まであと40秒を切りました!」


 なにっ?40秒?間に合うのか?間に合わないのか?


 周りのランナーは、そのアナウンスを聞くと全力疾走に移りました。もちろん私も全力疾走です。ここまできたら、ふくらはぎが痛いのなんのと言ってられません。


 ゴールゲイトの時計が見えます。その時間の進み方が妙に早く感じます。その割に、ゴールはなかなか近づいてきません。まるで夢の中で走っているとき、頑張っても頑張ってもなかなか前に進まない。そんな感覚です。 残り30秒・・・20秒・・・大丈夫か?大丈夫なのか?間に合うのか?


 ゴール前では、ブラスバンドの演奏などで迎えてくれています。私は最後の力を振り絞って走りながら、そちらに向かって手を振りました。


 ゴールゲイトは3時間59分50秒を示そうとしています。そしてまぶしく光って見えました。


 そしてついに・・・。(つづく)