ある人のブログにお話依頼があって投稿しました。そのコピーです。

63 ■魔王の肖像
吟遊詩人は歌う、荊棘の園の悲しき静寂を

昔々、町外れの洋館に魔王が住んでいた。そして、街でホームレスの子供が消える度に魔王が連れ去って、食べているのだと実しやかに騒がれた。

街長の娘で、ミコトーヌというたいそう弓の名人がおった。ミコトーヌはとても優しい娘で、ホームレスの子供たちにも、分け隔てなく接していた。

そんなある日の事、ミコトーヌがとりわけ、可愛がっていた幼いホームレスの男の子が姿を消し、また魔王が出たのだと噂された。

ミコトーヌはとても悲しみ魔王を退治する為町外れの洋館に向かった。
月明かりに照らされた洋館の中庭で、 男の子が襲われようとしていた。
ミコトーヌは目にも止まらぬ速さで弓を射った。矢は軽く放物線を描きながら魔王の背中を見事に貫いた。
ミコトーヌが男の子に駆け寄ると、男の子は魔王にしがみつきわんわん泣いていた。

魔王は洋館の没落貴族で子爵様だった。そしてホームレスの子供たちを集めては、広い敷地に畑を作り、自給自足の生活と家を与えていたのだった。

魔王と呼ばれた子爵様は、ミコトーヌの矢で返らぬ人となった。洋館とホームレスの子供たちだけが残された。ミコトーヌは、魔王の意思を継ぎ、洋館で子供たちと暮らした。

しかし、街長は帰らぬ娘が魔王に殺されたと思い、傭兵を雇って洋館を襲わせた。洋館は瞬く間に、炎に飲まれ、庭園の畑は踏み荒らされ、子供たちもまた魔王の仲間として無差別に殺されていった。

ミコトーヌは炎の洋館の中で魔王と呼ばれた子爵様の肖像画の前で倒れた。背中には大きな剣の痕が無数に開いていた。

吟遊詩人は歌う、洋館跡は荊棘の園、魔王と娘と子供たちの静寂を包み、何人をも拒む永久の霊廟と。
おかだまん 2012-01-23 23:12:09 [コメントをする]