―――――南の昼下がり






誰かの声で、目が覚めた。

どのくらい眠っていたのだろう。体を起こすと、頭がひどく重い。昨日、そんなに私は飲んだのだろうか?

手を伸ばした先に当たったグラスを引きよせ、中にある赤い液体で喉を潤す。水分であれば、なんでもよかったのは確かだけれど、それにしても二日酔いのはずなのに、それとも酔いが覚めていないからだろうか、味らしいものが、さっぱりわからない。

床に落ちていたバスローブを手繰り寄せ、首元までしっかり重ね合わせる。裸足のままそろそろと部屋の外に出たとたん、真正面に立つ、泣いている女の人と目が合った。肩のラインできれいに切りそろえられたブロンドのストレートの髪に、うらやましいくらい透き通った白い肌。赤く腫れた大きな目が、声を止めじっとこちらを見ている。その横に、疲れた顔の男が立っていた。

と、強く腕を引っ張られ、部屋の中に引き戻される。




「あぁ、昨日の…」




『僕の名前は覚えてる?』




海外ドラマでよく出てくるような聞きなれた名前を、彼は私に告げる。




『あれは彼の彼女だよ。今週末は来ないはずだったんだけど、どういうわけか今朝荷物を取りに来て、君のことで口論になったんだ』




まだ、話がよく飲み込めなかった。




「そう。よくわからないけど…。それで…私はどうしたらいいの?」




ベッドサイドに散らばった私の服を手渡しながら、彼は扉の向こうの様子をうかがっている。




『彼が彼女を連れて、一度この部屋から出る。その間に、僕らもここから出るんだ。だから早く服を着て。』




流れるジャズのレコードに乗って、いくつかの短い言葉のやりとりが聞こえる。それは木の床を打つ足音とともに階段の下に遠ざかり、やがてばたんと、重い扉の閉まる音がした。




『ねぇ』




窓から外を見下ろしていた彼が、私の方を見て笑っている。




『君は、すごいやつだな』




「何が?」




『すごいよ。そう誰にでも、出来ることじゃない』




訝しげな顔をしながらジャケットのボタンを留めると、




『よし、行こう。朝ご飯だ。』




私の手をとって、彼は扉の方へ進みだす。




「ねぇ、私の何がすごいの?」




長身の彼に引きずられるようにしながら、暗い階段を降りる。ふらついたこんな状態では、思わず足を踏み外しそうだ。

彼がアパートの重い扉を勢いよく開けると、眩しい日差しで目がくらんだ。




I like you.




そう言って満面の笑みを私に見せ、手を握ったまま反対の手でサングラスをかけ、彼は今度は信号に向ってずんずんと歩き始める。

見失わないように、あわてて彼の背中を追いかけた。








<続>